クレープ

「ありがとうございました。またお待ちしております」


 冒険者ギルドに行って、クエストの報酬を貰う。


「意外と稼げたなぁ……」


 クエストの報酬以外に、スライムの核を売ったお金もある。

 なんと合計金額は驚異の1000ベジナとなった。

 クエストの報酬が300ベジナだから……スライムの核が報酬の二倍以上を占めてるのか。

 まあ大量にスライムを狩って来たからね……。

 核を運ぶのが物凄く大変だった……。


「それでエリシア、今日はこの後何をしようか?」

「わ、私が決めて良いのですか?」

「? 別に良いよ。俺は特にやりたい事も無いし、エリシアがやりたい事あったらそっち優先したいし」

「ル、ルイド様……!」


 エリシアの目がキラキラと光る。

 か、可愛い過ぎる……目を向けられない……!

 プイッとそっぽを向く。


「と、取り敢えず何がしたいとか教えて?」

「そうですね…………私はルイド様といられたらどこでも良いのですが……」

「ッ……!」


 うわぁ、美女がそんな事言っちゃダメだってぇ……!

 何かもう一ヶ月以上一緒にいるのに心臓バクバクして来た……!


「では、少しだけこの街をルイド様と散歩してみたいです!」

「分かった、じゃあそうしようか」


 そして俺達は街の商店街付近を歩く事にした。

 この街に来てからこういう場所には来てなかったからなぁ、結構新鮮味がある。


「うおっ、超美人……」

「綺麗な人ー……」

「ねぇあんた! 今他の女によそ見したでしょ!? ねぇ!?」


 商店街を歩いていると、道ゆく人がエリシアの事を見る。

 そのせいで恋人と修羅場になっている人もいるっぽいが……まあ、ご愁傷様というやつである。


「あっ、見てみて下さいルイド様! クレープがありますよ! クレープ!」


 スタタタターとクレープ屋へ走って行くエリシア。


「おぉ……」


 クレープの生地が作られていく様子をキラキラとした目で見ていた。

 あぁ! クレープ屋の人エリシアの美貌びぼうのせいで集中出来なくてミスっちゃった!

 慌ただしく店員さんが新しい生地を作り始める。


「食べたいの?」

「えっ、あっ、えっと……」

「遠慮しなくて良いんだよ。お金は結構手に入ったしね」


 そう言って今日のクエストで手に入れた報酬が入った袋をジャラジャラと揺らす。


「で、でしたら一つ……食べたいです……」

「ん、分かった。種類は?」

「しゅ、種類?」


 どうやらエリシアはクレープに種類があるのを知らなかった様だ。

「ほわわぁ〜……!」と声を出してメニューを見ている。

 案外こういうのをあまり知らなかったりするのかもしれない。


「では私は、このチョコバナナクレープが良いです!」

「分かった。すみません、チョコバナナクレープを二つ」

「はっ、はい!」


 エリシアに渡すクレープを作るという事で、どうやらクレープ屋さんの人のやる気スイッチがONになった様だ。

 目と背中から炎がメラメラと燃えるのが見える。


「うおおおおぉぉぉおお……!」


 な、何て手さばきだっ……! 速い、速すぎるっ……!


「お待たせいたしました! チョコバナナクレープ、二つ!」


 そう言って店員さんに貰ったクレープを見る。

 エリシアのだけめっちゃ形綺麗だ……。

 俺らは近くの椅子とテーブルがある所に行ってクレープを食べる事にした。


「んん〜っ! 美味しいですルイド様!」

「良かった」


 ガブリとかぶりつくエリシアもまた絵になるなぁ……。

 そう思いながら俺も一口食べる。


「……!」


 おぉ! めちゃくちゃ美味い!

 何というか、泣けてくるなぁ……。

 ダンジョンの中じゃこんなに美味いのは絶対に食えなかった。


「「「「「……」」」」」


 というか、めちゃくちゃ通行人がエリシアを見てる。

 中には立ち止まってぼぉーっと見てしまう人もいた。


「ルイド様、口の横にチョコが」

「え?」


 どうやら通行人に集中し過ぎて付いてしまった様だ。


「取ってさし上げますね」

「うぇ!?」


 エリシアが俺の口の横に付いたチョコを指で取る。

 そして――


「はむっ」


 食べた。

 ……食べた?


「食べた!?」

「えっ!? も、申し訳ありません! いけなかったでしょうか!?」


 エリシアが立ち上がって俺に頭を下げて来た。


「うわぁ……あいつあんな美人に頭下げさせてるよ」

「最低だな」

「クソ過ぎね?」


 周りからそんな声が聞こえて来た。


「ちょっ、別に大丈夫だから! 頭上げてお願い!」

「す、すみません……」


 少しシュンとした表情でエリシアが座る。


「その……食べた事については別に怒っても無いし……全然ダメとかではないよ……」

「で、では何故……」

「いやぁ……そのぉー…………エリシアみたいな美人に食べて貰えた現実を受け止めるのに時間が掛かった……」

「……ボッ!」


 効果音でしか出ない様な音を口から出しながら、エリシアの顔は真っ赤になっていった。

 スライムの時よりも真っ赤かもしれない。


「エ、エリシアー?」

「うぅ……」


 うわっ!? 机から湯気が!?

 どんだけ熱くなってるんだ!?


「び、美人だなんて……」

「実際エリシアは美人だからなー」

「はうぅっ……」


 しまった、湯気の量が増してしまった。

 その後、エリシアが机から湯気を出すのが終わるのに約十分程掛かったのであった。

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