一方その頃……――②

「ぐあぁ!」

「大丈夫か!?」


 一層にてモンスターを倒していると、ギリダスがルンスパイダーに飛びつかれる。


「どうした?」

「わ、悪ぃ、ミスっちまった」


 ルンスパイダーは、数体がでかい割に動きが単調なのでスパイダー系のモンスターの中でもかなり弱い部類のモンスターだ。

 それにやられかけるなんてギリダスらしくない。


「まだ慣れないか?」

「ああ。くそっ、ルイドのヤツ……どれだけ俺らを……」


 ブツブツと言いながら、ギリダスは立ち上がった。


「無理はするな。慣れない状態で無茶をすれば、死ぬぞ」

「……分かってるよ」


 ギリダスはそう言って剣を構える。


「でもやらねぇといつまで経っても慣れる事はねぇ」

「まあ、それはそうだな」

「だから……やるっきゃ、ねぇんだ!」


 近付いて来ていたルンスパイダーをギリダスが斬り裂く。


「ふぅ、な? まだまだいける」

「まあマジで無理はするなよ」

「あいよー」


 ギリダスが軽い口調でそう言ってルンスパイダーを狩る。

 ユミルの方は……


「【火球】! 【火球】!」


 うん、大丈夫そうだ。

 まあここは何だかんだ言って1層目だし、ここで重傷を負う事は殆ど無いだろう。


「俺も慣れねぇと……」


 ルイドのヤツのゴブリンが来るから行動を少し遅らせてしまうという癖を、本当どうにかしないとこの先ダンジョンに潜る事は出来ない。

 急いで慣れよう。お金が稼げないしな。


「おらっ!」

『ギシィィィィィ!』


 ルンスパイダーを真っ二つに斬り裂く。

 そして最後からこっそりやって来てたヤツも斬った。


「これくらいならぜんぜ――」

「ヴァルト!」

「え?」


 ユミルが叫んだ方向を見ると


『キシシシシシシシシシ』


 大きくジャンプして飛んできたルンスパイダーがいた。


「うわぁっ!?」


 俺はルンスパイダーに押し倒され、喰われない様に口の近くに腕をやる。


「くっそぉ……!」


 ユミルが【火球】を放てば、俺も燃えてしまう。


「ギリダス! 頼む! 助けてくれ!」

「任せろ!」


 ギリダスが走って俺の元へ来て、ルンスパイダーを斬った。


「助かった」

「全く、お前が無茶すんなよ」

「無茶はして無いさ、まだ癖が抜けてないだけだ」

「ま、そういう事にしておいてやる」


 ギリダスはそう言ってまたルンスパイダーを斬り始めた。

 ふぅー、と息を吐く。

 大丈夫、慣れるまでの間にさっきの様な事はあるさ。

 大丈夫だ大丈夫。

 取り敢えず、マジでこの癖を抜かないとだな。

 そう思って、俺もルンスパイダーを倒し始めた。

 そして約三時間程が経過した。


「どうだ?」

「おかしい。癖がどうも抜けねぇ」

「えっ、ギリダスも?」


 ユミルが驚きの表情を浮かべる。


「お前もなのか」

「ええ、なんか思い通りにいかないの」

「くっそ……あいつ本当に面倒な癖を残して行きやがった……」


 ギリダスがそう言って近くにあった小石を蹴った。

 正直言って、俺もそう感じる。

 全然癖が抜けない。

 前みたいにモンスターを倒す事が出来ないのだ。

 まあ流石に一日で癖が抜けるのは虫が良すぎるか。


「明日もここへ来るとしよう。まあ一週間もすれば癖が抜けるだろうし、それまでの辛抱だ」

「……そうだな」

「……そうね」


 二人は少しだけうつむきながらそう返事をした。


「それじゃあ今日はもう帰ろう。良い時間だしな」


 そう言って俺らは街に帰ろうとした。


「あれ? お前達は……」

「あっ、ギーダさん」


 ギーダさんは、この街で出会った冒険者だ。

 物凄く強くて、何回か一緒にクエストを受けたりした。


「お前さんらも、金儲けに?」

「ええ、ですが……」

「なるほど、あんまり狩れなかったんだな?」

「やはり分かってしまいますか」

「そりゃあよぉ、あんまし素材を持ってねぇ様だし……ん? あの坊主はどこ行った?」

「あの坊主?」

「ほら、召喚士の」

「あぁ、あいつはパーティーから追放しました」

「……は!?」


 ギーダさんの表情が変わった。


「えっ、おまっ、マジで言ってんのか!?」

「えぇ、まあ……あいつは正直言ってお荷物でしたし……」

「馬鹿かおめぇ! あいつがいなかったらお前さんらはとっくに死んでるぞ!」


 は、はぁ? ギーダさんは何を言ってるんだ?

 あのお荷物がいなかったら、俺らはとっくに死んでいる?

 そんな訳がない。あいつは言わばモンスターを召喚して、ちょっと戦えるだけ。

 対して俺らはほぼほぼ勇者パーティーの様なものだぞ?

 馬鹿はどっちだ。


「ちょっと! そんな訳ないでしょ! あいつがいなかったら私達は死んでいるなんて事、あり得る訳ないわ!」


 ユミルがギーダに対して大声でそう言う。

 そうだ、その通りだユミル! そんな訳無いんだ!


「はぁ……まあ俺はこれ以上は言わねぇよぉ。それじゃ、俺はちょっくら潜るとするさぁ」


 そう言ってギーダはダンジョンの中に入って行った。


「何なのあの人! 前まで良い人だと思っていたけどあんな最低な人だったのね!」

「そうみたいだなユミル。まさかお荷物がいないと俺らは死んでるだとかほざく奴だったとはなぁ」


 そう言ってユミル達はギーダの事を愚痴りながら街へ歩き始めた。


「全く……実はあんな人だなんて……」


 結構信頼出来て頼り甲斐がいのある人だと思ってたのに……。


「くそ……」


 何でこうも上手くいかないんだ。


「ん? 何してるんだヴァルト? 早く帰ろうぜ」

「あっ、ああ」


 そういして俺はユミル達の所へ走って行った。

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