第12話



          ■■ 5 ■■




 朝になってからのこと。

 その、六本木の高級ホテルでは、



 ――ドワッ、ン!!



 と、勢いよくドアが開けられ、ホテルマンたちがなだれ込んだ。

 客室から、いっしょに泊まっていた女が爆殺されたとの一報があったから、急いで駆け付けたのである。


「うっ!? うわぁぁん!!」


 男のホテルマンが、驚きのあまり絶叫する。

 ベッドが血で赤く塗(まみ)れながら、顔が見るに堪えない無残な状態になった、女の爆殺死体が横たわっていた。

 そこから、当然のことながら警察が呼ばれることになり、今にいたる――



「おっほぉ……、なかなかに、いい部屋っすねい」 



 と、感心したように言う碇賀元に、


「は、はい……」


 と、支配人と思しき男が、困惑したように答えつつ、


「ここ、一泊、おいくら万円なんすか?」

「は、はぁ……」

「あ、あの、刑事さん? た、タバコは、」


 とここで、ホテルマンの女が、碇賀が手にしていた電子タバコに気づき、


「ここも、愛擦はダメかねい? 愛・擦チャレンジ、失敗か……」

「チャレンジやめるでござる。てか? ハマってんの? その『愛・擦』?」


 と、相方の賽賀忍に、碇賀がつっこまれていたところ、



「うぃ~……、清水子のヤツから頼まれて調査に来たぞ。ああ、クッソだっりぃ……、腰痛てぇ」



 と、くたびれた様子の綾羅木定祐が入ってき、


「ああ……、腰、痛った」


 と、同じように、上市理可も続いた。


「ああ、松もっちゃんの旦那さん」

「元だっての。ぶっ、飛ばすぞ」


 と、碇賀と綾羅木定祐がやりとしりていると、


「ちなみ、綾羅木さんたち? 昨夜、新宿のラブホテルで怪現象があったみたいだけど……、床や壁から人間が出てきたって目撃談が数件あって。何か、知ってる?」

「「いや、何にも、知りま、せん……!」」

「そう」


 と、昨夜の調査での騒動について触れられ、二人はドキッとする。

 それはさておき、


「と、とりあえず、現場を見ましょうよ、ガーさんたち」


 と、気をつかった様子で声をかけてきた群麻と、


「おう! はぁくしろよ!」


 と、苛立った様子の中年刑事が急かしてきた。


「う、ういっしゅ」


 碇賀は答え、ここはさすがに、ちゃんと調査に加わることにした。

 そのようにして、現場を見てみる。

 まずは、やはり、天井に穴が開いていた。


「おっほぉ、やっぱ、天井に穴が開いてんねい」

「む、ぅ……」


 碇賀の言葉に、綾羅木定祐が目を凝らして見てみる。 


「天井に、あ、あなっ――! あっ、たし、かに」


 と、上市理可も確認しつつ、


「あな、A、N、A――。さて、ここで質問です。JALと、ANAが、もし合併するとしましたら、どんな名前の会社にしたい、ですか? おまいら?」

「「「おい、やめロッテ。最低かよ」」」


 と、綾羅木定祐の唐突な問いに、つっこみの言葉が重なる。


「いやいや、何故に最低などというのかね? そもそも、そう思うからには、おまいらたちが、やましいナニカを考えているからではないのかね? 少なくとも、おまいらの心が汚いのだ。いいかね? この質問の、隠された意図を考えてみたまえ? これは、一種の――、アナロジー的な、知的な思考ゲームだよ」 

「あ、アナ、ライズ!」

「「「うるせーよ、黙れよ、変人コンビ」」」


 と、綾羅木定祐と上市理可の二人に、碇賀たちを除く数人から再びつっこみが入って制止される。


 気を取りなおして、話を先に進める。

 穴の向こうの、天井裏について調べたのち、いったん穴のことは置いて、


「それで、このガイシャについても、他と同じく、例の歯科――、GOGO郷田歯科医院に通っていたそうだ」


 と、刑事の中年がいうと、


「ご、GOGO郷田って……! り、理可氏、」

「プッ……! く、く……、く、」

「おい、笑ってんじゃねぇぞ! お前ら!」


 と、歯科医院の名称に、綾羅木定祐と上市理可の二人が、思わず笑いそうになるのをこらえる。


「これで、ガイシャについて、すべてGOGO郷田歯科医院に通っていたということから、この歯科医院について調査をしなければならないな」


 中年が、そう言った。


「マ――?」


 その言葉に、綾羅木定祐が「マジ、すか?」の顔をする。


「ああ。『マ』に対して、『アア』だ」


 と、刑事が、ドヤ顔で返す。

 その横から


「はぁ、そんな、トンデモな説で調査を進めるのかね?」

「トンデモだと? 失礼な」

「ちなみに、綾羅木さんたちは、何か考えがあるんですか?」


 と、無二屋が聞いてきた。


「はぁ? 私らの、考えだと?」

「人のことをトンデモというからには、何か考えがあるんだろ? “探偵”様は?」

「はぁ、めんどくせぇな。理可氏、説明してよ」

「は? 私が、するの?」

「うん、そうだ。私は、鉄の意志を持って、説明をすることは、ない……。この、鋼鉄の綾羅木は、な――」

「いや、説明しろよ。めんどい」


 上市理可は嫌そうな顔をしながらも、


「おう、はぁくしろよ」


 と、刑事が急かしてくる。

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