第11話



          ***



 場面は変わって、六本木の高級ホテルの一室にて。

 日付が変わり、夜の3時を過ぎたくらいのころのこと。


 ある港区女子が、中年男性とのデートののち、一夜をともにしていた。

 ともに、ダブルのベッドで寝ながら、テーブルには、遅くまで飲んでいたのだろう、高級ワインのボトルがありつつ。


「ご、ががっ……」


 と、男のほうが、軽くイビキ気味の音を出しながら、


「う……、ん……」


 と、女のほうが、やや寝相の悪い感じで仰向けになる。

 年のころは、20代半ばの、港区女子としてはちょうど油の乗る前くらいだろうか。


 まあ、世間一般的には美しく整えた、美容外科顔。

 歯も、こまめに美容歯科に通っており、ホワイトニングによって白い。

 とはいえ、ちょこちょこと虫歯もできているのだが、これも最近通い始めた歯科により、健康で正常な歯と、全く分からないように施工されている。


 ちなみに、その歯科というのは、有名なGOGO郷田歯科医院というところで、理事長の郷田という男は、サーファーのような色黒で、かつロン毛のイケメンであり、「へーきへーき! すっげぇ、潔白みたいに白くなるから!」との安心感と頼れる言葉とともに、技術面と、経営面でもなかなか腕の立つカリスマである。

 それはさておき、


「ん、あっ……」


 と、ぽっかりと口を開けながらも、女の顔は美貌のそれを保ち続けている。

 もしかしていると、寝ている間でさえ、自身の美貌をひけらかし、港区女子としてふるまっているのかもしれない。

 そうしていると、



「う、ん……」


 

 と、人間誰しも、夜中に脈絡もなく目が覚めることがあるだろうから、女もその例にもれず、目を覚ましかかる。


 半ば起きて、半ば眠っているような状態。

 スィーツに、アフヌンと――、映える写真を撮り、港区女子として勤しんでいる夢を見ていた。

 その時、



 ――ヒュー……


 

 と、天井から、“ナニカ”が落ちてきた。

 それは、


 ――ストン……!


 と、ちょうど開いていた女の口へと入る。


「――モ、グッ!?」


 夢うつつの女も、違和感に反射的に反応する。


「い”っ!?」


 もしかして、Gの虫――!?

 寝ていると天井から“それ”が落ちてきたという見聞が、一瞬、頭をよぎる。

 そう驚き、気持ち悪がるも、


(か、硬い――?)


 と、口に落ちた謎のナニカの感触は、どこか、硬い金属質のように感じた。

 とにかく、そのような異物は、すぐに出すべきなのだが、そういうときに限って、自分の身体とは思うように動かないものである。

 口の中に落ちたそれが、パチンコの玉か、どんぐり程度に小さいものであるからというのもあるだろうし、寝相悪い気味の、仰向けの姿勢というのもあるかもしれない。

 そうしているうちに



 ――カチ、カチ……



 と、何か、カウントダウンのようなものが過ぎった。


「ひっ、ひぃ!」


 本能的に、女は嫌な予感がした。


(も、もしかして――!)


 と、例の連続爆殺事件のことに、ようやく考えが及びかけた、その刹那――


 

 ――ボン!!



 と、一瞬のこと、口の中が爆ぜた。

 血肉、歯や骨片が飛び散りながら、血飛沫まじりの硝煙が漂う。

 自慢の、美貌の顔も台無しになる。


 もっとも、最後の瞬間に、自分の顔がどのようになったのか、自覚する由もなかったのだけが救いだったかもしれない。


 なお、寝ている男のほうは鈍感なのか、深酒ゆえに起きないのか、屍となった女に気がつくのは、朝になってからであった。

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