第10話


「ちなみに、その異能力ていうのは? どんな感じの能力なんですか? さっき、天井から、すり抜けるように出てきましたけど」


 銀髪のカズヤが聞く。


「正確には、妖力なんだけど、そうね……、昔のファミコンの、マリオとかってのは、イメージできる? 空中に浮いている床に、ジャンプしてすり抜けたり――、逆に、しゃがむと、下に降りることができる的な――」

「ってことはぁ、お二人にとって、あらゆる水平面が、マリオの世界みたいな“床判定”に変わる――、そういうことですかぁ?」

「オゥ! イェ~ス! 勘がいいねぇー、君ィ!」


 女の答えに、綾羅木定祐が高いテンションで答える。


「それで、天井板を“床”として立ったとき、はみ出た上半身が、男の股間につっこんだわけですよね?」

「ああ、そうだよ。余計なことを思い出させるなよ、クソが!」


 と、怪人をクソ呼ばわりしながら、綾羅木定祐は続けて、


「まあ、そんな感じで、もっと良い異能力を使える能力者はいるかもしれないが、異能力を使っても、そんな簡単にはいかないのは確かだ」

「で、この怪人さんたちもぉ、犯人じゃないしぃ~、そんな怪人は知らないって言ってるんですよねぇ~?」

「まあ、そうなるな。こいつらの言葉を、そのまま受け取るなら。それに、私らは妖狐の妖具を使うこともできてな、もし、そんな怪人がいるならば、それで調べることもできる」


 と、言いながら、綾羅木定祐は妖具のようなナニカを召還する。

 ホログラフィーのように召還されたそれは、日本画のような美しい緑色をした、蔓植物の“葛”の蔓葉と――、それらに絡み合うように、まるで高度な電子回路のような金糸。


「な、何だぜ? こりゃ?」


 怪人が、ポカンとして聞くと、


「妖狐の妖力というか、妖具というか、まあ、妖力としておこう。こいつは、“葛葉”といってな」

「そのまんま、ですねぇ」

「うん。それで、この妖力は、何だっけ? けっこうチート級の情報蒐集系の能力を持っていてな、あらゆる情報網に侵入したりハッキングしたりして情報を得ることができるみたいでな」


 なお、補足すると、ただでさえ枯れかけの妖狐の妖力を消耗させるという代物である。


「うわぁ、すごぉ~い! でもぉ、色んな妖具を出してくれるって、何かぁ、ドラ〇もんみたぁ~い」

「うん。実質、ド〇えもんみたいなナニカだね」


 上市理可が、答える。

 また、綾羅木定祐が、


「それで、話を戻すと、こいつらみたいな怪人や、私らのような異能力者でない、別の可能性を考えたいと思ってるんだがな。まあ、巧妙に、“葛葉”の調査力から逃れる怪人や能力者もいると思うが、とりま、いったんそれは置いておき。――で? 何か、お前たちもいいアイデアは無いのか? 盗撮魔」

「わ、悪かったって、」


「しかし、その爆殺事件ってのは、何件か続いているんですよね? 旦那?」

「みたいだな」

「この、ラブ・ホならともかく、中には侵入しにくいところもありますぜ?」

「君たちみたいな、ある程度のマスを持った怪人ならな」 

「なぜに、英語のmassを……」


 と、綾羅木定祐と怪人たちが話していると、


「え? じゃあ? 逆になんですけどぉ、犯人はもっと、小っちゃいナニカとかって、考えられません?」



「「「小っちゃい、ナニカ――!?」」」



 と、女の言葉に、綾羅木定祐や上市理可たちは、頭の中がキュイン! キュイン! と鳴る。


「そのぉ……? 例えば、こんなブッサイクな怪人さんみたいのじゃなくて、もっと、小さくてかわいい、ハムスターさんみたいなの、とかぁ」

「悪かったな、ブッサイクで」

「しかし、確かに……、犯人が、小さい存在だという可能性は考えてこなかったな」

「もし、そうだと仮定すると、屋根裏、天井裏に侵入することも、そう難しくはなくなるね」

「そうだな。ただ、狙った人間の部屋に侵入し、ピンポイントで天井板に穴を開けて、そこから爆弾を落として爆殺するとは、なかなかに高度にインテリジェントな行為じゃね?」

「そうすると、その小っちゃいナニカ単体じゃなくて、それに情報を伝えて、操作する犯人がいる――、とか?」


 と、綾羅木定祐と上市理可が話しつつ、


「伝書バトみたいな、感じですか?」

「おお! 銀髪きゅ~ん! いいねぇ! エ、クセレントだよ! そんな感じだよ!」

「あ、は、はい!」


 と、銀髪の男が間に入るも、綾羅木定祐の謎テンションに困惑しながらも、それに少し釣られるてくる。


「しかしのしかし、発想としては、確かに……、ありかもしれないな。犯行を行ったのが、小動物サイズのナニカという仮説は」

「とりま、その方向で、もう少し調査を進めてみるし。綾羅木氏」

「ああ、そうだな」


 と、今回のラブ・ホでの調査は不発に終わったものの、いちおう収穫はあったことにしておく。

 そのようにしながらも、


「しかし……、まさか、テンション上がると、そんな風に豹変するとは思わなかったよ、一三(かずみ)」

「えぇ”~? もしかして、一三のこと、嫌いになっちゃったぁ”~?」 

「いや! むしろ、そんな一三の、新しい面が知れて……、俺、ますます好きになったよ!」

 と、カップルたちがやり取りしつつ、

「うん! テンション上がって来たわね!」

「テンション、あげちゃっていいんですか!?」

「ああ! いいとも!」

「うぉぉんッ! 一三ィィ!!」

「カァズヤァ~!!」

「あぁァッ~! 努力ゥー! 未来ィー! ビュティフォ、ラァ~ブッ!」


 と、綾羅木定祐と上市理可の二人とともに、謎に盛り上がる。

 そんな彼らをよそに、


「や、やべぇよ……、こいつら」

「あ、ああ……、頭、おかしくなりそうだぜ」


 と、怪人たちがドン引きしていたが。

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