第6話
***
少し前後して。
同じラブホでは、浴室にて楽しむ男女の姿があった。
「デュ、フフフ……♡」
と、男が思わず、胸の高鳴りに妙な声を漏らす。
これから、潜水艦プレイに興じようとしており、
「さあ、僕の潜水艦が浮上するよ……♪ アメリカ海軍の、オハイオ級潜水艦がね♪ 浮上許可を願う♡」
「いいよ、浮上して、どうぞ♡」
などとやりとりをし、これからまさに盛り上がろうとしていた、そのとき、
「む、わぁーりぉぉ!!」
と、綾羅木定祐が、ザッバァーン――!! と勢いよく、浴槽の底から現れた。
同時に、
「「うっ!? うわぁぁ~ん!!」」
と、男の悲鳴が重なる。
あろうことか、綾羅木定祐の出現した場所だが、ちょうど男のキンタm――、すなわち“おいなりさん”の位置であり、それが顔とドッキングする形になってしまったのだ。
「ひ、ひゃぁぁぁ!! 何!? 何!?」
相方の女も、のけぞって叫び、パニックになる。
目の前で、浴槽の床から人間が出現するという、目を疑うようなことが起きたわけであるから仕方がない。
なお、どうしてこうなったか説明すると、妖術『マ〇オの床』によって、綾羅木定祐は天井板をすり抜けたわけだが、その天井板からコンクリートスラブまでは高さが低く、当然、そのままの姿勢では余った身長分がはみ出てしまう。
ゆえに、綾羅木定祐の上半身が、そのまま上のフロアに出てしまったのわけである。
それも、よりにもよって、カップルがこれから潜水艦プレイをしようとしている浴槽に――
「ぐ、ぐわぁぁ!! き、汚い! 汚い! か、顔が腐るぅぅ!! 顔が、溶けるッ!!」
綾羅木定祐が、顔をおさえ、悶絶して叫ぶ。
「これは……、『いなりが入ってないやん……!』じゃなくて、『いなりに入ってるんやん』ですねぇ~」
と、いっぽうの、上市理可は安全な場所に降り立っており、高みの見物をする。
また同じく、
「うわぁぁ、ぼ、僕の股間にオッサンが!? 僕の股間にオッサンがぁぁ!!」
と、むしろ男のほうも、見知らぬ中年が転生してくるがごとく自分の股間に現れたわけであるから、取り乱して叫んでいた。
「と、トラウマになるぅッ! トラウマになるぞぉ!!」
「まあ、相手もそこそこトラウマでしょうね。とりあえず、綾羅木氏、ここから移動するし」
「ぐぅぅ……、か、顔がッ、顔が溶ける……」
「いや、いいから!」
と、上市理可がひとごとのように言いつつ、錯乱気味の綾羅木定祐に移動を促す。
そうしつつ、
「あっ? すんませんした」
と、上市理可はカップルたちに平謝りし、そのまましれっと、相方の綾羅木定祐を連れつつ、床をすり抜けて消えて行ってしまった。
そんな、嵐のようなできごとの後、
「……」
「……」
と、カップルたちは唖然としながら、
「なっ……、何だったの? い、今の……?」
「い、いやいや! こ、こっちが聞きたいよ! ――てか、うげぇぇ……! ま、まさかの、オッサンの顔がッ、股間にッ――!!」
と、男は先の光景と触感がフラッシュバックし、気持ち悪くなる。
とりあえず、起きたことのすさまじさゆえ、二人は情事を行う気力が一切消え失せてしまっていた。
■■ 4 ■■
綾羅木定祐と上市理可の二人は、一組のカップルの一夜を台無しにしながらも、そのままラブホテルでの調査を続けていた。
そうしてついに、二人は怪しい怪人たちを見つけることになる。
ドブネズミ怪人と、ハクビシン怪人とでも言うべき輩二人が、このラブホテルの天井裏の片隅で、何かをしようとしていた。
そこへ、
「おい、お前たち」
「「うぉっ――!?」」
と、綾羅木定祐が突然かけた声に、怪人たちは驚いた。
しかし、怪人たちは振り返ってみるに、
「「なっ!? なんじゃこりゃああ!?」」
と、思わず声をあげた先――
綾羅木定祐と上市理可の二人は、上半身がコンクリート天井に貫通したまま、下半身だけのという変態的な絵面で、こちらに迫ってきていた。
まあ、たぶん、屈むのがしんどいのだろう。
「「う、うわぁぁぁ!!!」」
人間たちでなく、怪人たちのほうが、思わず叫び声を上げる。
「な、何だぁ!? に、人間の下半身がが追ってくるぞォッ――!!」
「く、来るなぁ!! 来るなぁ!!」
怪人たちは、腰が抜けた状態で後ずさりする。
そこへ、
「おい! 大人しくしろ! お前たち!」
と、中腰に屈んだ綾羅木定祐の顔が現れる。
「ひっ!? ひぃぃっ――!!!」
「に、逃げるぞッ!!!」
怪人たちは何とか立ち上がり、逃げ出す。
「ま、待てい!!」
「はいはい、そこの二人、待ちなさーい。暖かい、お風呂で、えっち、するん、だ・ろ・な!」
「いや、どんなテンションよ?」
綾羅木定祐と上市理可の二人は、怪人たちを追う。
なお、その追走劇中も当然、縦横無尽に天井裏を移動しながら追うわけであり、
またしても、
――ザッバァァーッ!!!
と、綾羅木定祐が風呂場から現れることになる。
そうして、今度の部屋もカップルがいた。
「なっ、何じゃぁぁ!?」
厳つい刺青にスキンヘッドで、かつローション塗れの大男と、
「は? 何よ、アンタたち……!」
と、その恋人か愛人なのか、はたまたデリヘル嬢かは定かでないが、妖艶な花魁風の女が立ちはだかる。
続けざま、
「ちっ! こんなとこっからカチコミかけやがって! こんガキャぁぁッ!!」
「おいおい、こんな異次元のカチコミするヤツがおるんか!?」
と、刺青の大男が怒って、綾羅木定祐に襲いかかる。
「うぉぉ!! 行っくでぇぇ!!」
刺青のローションが、覆いかぶさるように綾羅木定祐に突進してくるも、その動きを見切った綾羅木定祐が踏み込み、
「フン! 『こう見えて私結構強いんですよ』パァーンチッ!!」
と、技の名前を出しつつ、刺青のローションにボディをかます。
その威力は、ヘビー級の格闘家を破壊するに十分な威力であり、
――ブォン!!
と、まさに炸裂しようとした、その刹那、
――ヌッ、ルン……!
「な、何ぃッ!?」
と、綾羅木定祐が驚愕した。
スローモーションのように、まったくない手ごたえ。
同時に、若干の、ヌルっとしてスベッとした感触――
超人的な体術でパンチをいなしたのか? はたまた、某海賊漫画のス〇ス〇の実のような能力か? いや、
「こ、これはッ!? ローションだッ――!!」
と、綾羅木定祐が、思わず声をあげた。
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