第5話



          ■■ 3 ■■




 その日の夜。

 綾羅木定祐と上市理可の二人は、とりあえず、怪人に関して調べる。

 しかし、その怪人の気配を探るに、そこは新宿のラブホテルであり、


「――と、いうわけでだ、このドラ〇もん野郎」

『はぅ、』


 と、綾羅木定祐は、妖狐の神楽坂文と電話をしていた。

 なお、テレビ電話で様子を見るに、妖狐は箱根の小旅行中である。


「いまから、このラブホで調査をするわけだが、屋根裏、天井裏を調査するの、何かいい妖具を出してくれよ? あ、タケノコ、忘れてないよな?」

「そっすよ。ずいぶん、いい温泉に入ったんでしょ? それくらい、出してよね。ああ、ちゃんと、タケノコとってきてよね」


 と、二人は念を押しつつ、


『ふむ? 何だ? 貴様たち、ラブホテルにいるのか? いや、なかなか良いラブホテルではないか? どうだ? 色んなプレイも――、ソフトSMや医療プレイ、それこそカンチョープレイも、やりたい放題だぞ?』

「だってさ、綾羅木氏? どうする?」

「どうするじゃねぇよ。てめぇら、頭の中ドラ焼きでできてんのか?」


 と、綾羅木定祐だけが、二人につっこんだ。

 本題に戻って、


「で? 何か、いい妖具があるのか? どうなんだ? このドラ焼き野郎」

『屋根裏・天井裏を調べるのに、妖具がいるだと? 貴様たち、いちおう異能力者だろ?』

「まあ、そうだが、……しかし、この狭い天井裏をどうやって異能力で調べればいいのだ? 入って、動くだけでも大変だぞ」

『ふむ』


 と、妖狐は電話越しから、ラブホの天井の方を透視してみる。

 その、天井板とコンクリートスラブの間の空間は一メートルもなさそうであり、なおかつ、配線や配管の多い空間である。

 綾羅木定祐の言うように、狭く、移動しにくいには違いないだろう。


「それか、何か、魔界植物やちっちゃい魔獣でも召喚してくれないか?」

「それ、良いし。それだと、私たちが天井裏に入らなくて済むし」

『また、ラクすることばかり考えおって、この怠け者ども』

「フン、呑気に箱根に行ってるお前に、言われたくないんだが」


 そう、綾羅木定祐が嫌味を言う。

 すると、



『やれやれ、仕方ないな……。ムワ、ァリオの床――!」



 と、妖狐が言うと同時、

 ――ホワンァッ……!

 と、仄かな光のオーラのような何かが、綾羅木定祐と上市理可の二人に、下からスキャンするように走った。


「「“マ〇オの床”――、とな?」」

『ふむ、そのとおりだ。妖具を出すでのなく、貴様たちに妖力を掛けさせてもらった。ある種の、空間変化型の異能力とでもいうべきか――』

「空間変化型の異能力、だと? それで、どうなるわけだ?」


『まあ、簡単に説明する。この能力をかけた貴様たちに対する、空間の、あらゆる水平物がな、ファミコンのマ〇オの床のような判定に変わるのだ。天井であれ床であれ、ぶつからずにすり抜けるたりすることが可能になる――』

「ああ、何となく、イメージできるかも」


 上市理可が、確かにファミコン、もしくはスーパーファミコン版のマ〇オを思い浮かべる。


「何だ? すると、ここからジャンプすることで、天井板をすり抜けて侵入でき……、なおかつ、上のコンクリートスラブに頭をぶつける心配もないのだな?」

『そのとおりだ。まあ、ものは試しだ。とりあえず、私は箱根でのんびりしているから、あとは貴様たちで何とかしろ。カスども』


 と言って、妖狐はそのまま電話を切った。


「ちっ、切りやがったし、あのドラ焼き」

「ああ、ムカつく。こっちはこれから調査だってのに」


 と、二人はイラつきながらも、


「まあ、仕方ないな。とりあえず、試してみるか? 理可氏」

「はぁ、仕方ないわね……」

「しかし、ラブホで皆が盛り合ってる中、我々は仕事をしているんだよね?

「そう考えると、やっぱ、ムカつくね。あぁ~あ……、暖(あった)かい、お風呂で、エッチするん、だろな♪」

「僕も帰ろ、お家へ帰ろ……、ああ、帰りて」


 と、昔話のようなナニカを口ずさむ上市理可に、綾羅木定祐も続きつつ、


「とりあえず、いくか」

「「せぇーのぉ……! 暖かい・お風呂で・エッチするん、だ! ろ !な!」」


 と、二人は勢いよく、ベッドから天井に向かってジャンプした。

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