第9話
これから書くのは私が20歳の時に受けた性暴力の話だ。嫌悪感や忌避感、拒否感を感じる方々がたくさんいると思う。辛い事を思い出してしまう方もいらっしゃるかとも思う。私自身書いていて辛くなると思う。それでも「性」を書くと決めた時からこの話は外せないと思った。なので書こうと思う。
私はフリスクという食べ物が食べれない。見るのも嫌だ。何故なら20歳の時に受けた性暴力を思い出すからだ。
あれは私が20歳の時。
その夜は休学と復学を繰り返して留年してまで通っていた看護専門学校を辞めて実家に帰る為アパートで荷造りをしていた。
数日後に引っ越す。実家に帰る。もう引越し業者は手配したからそれまでには荷造りをしなければならない。
私は深夜まで荷造りをしていた。
その時アパートのチャイムがなった。こんな遅くに誰だろうと不審に思いながら玄関を少しだけ開けた。
そこには知らない男が立っていた。
その男は親しげに私の名前を呼びながら無理矢理部屋に入ってきた。私にとっては顔も名前も知らない男だ。しかしその男は「自分は同級生だ」と言う。
知らない。見た事もない。
男は私が留年して学年が一緒になってしまった同級生だと言う。でも私はこの男知らない。顔も名前も存在自体知らない。同級生だったとしても接点は全く無い。そんな男が何故私のアパートの部屋に訪ねてきたのか…。
その男は一人でニヤニヤしながらよく喋り、私に近寄ろうとする。私は距離を取りながら「帰ってくれ」と何度も言ったが聞かない。
そしてその男はおもむろにポケットからフリスクを出して「食べなよ」と私に無理矢理食べさせた。
そしてさらに深夜になるまで部屋に居座った。そのうち私は急な身体のだるさと眠気に襲われ始めた。
それに気付いた男は
「眠くなったの?じゃあ薬飲まなきゃね」と
テーブルの上に置いてあった私が心療内科から処方されていた睡眠薬を2回分も飲ませようとした。
私は抵抗した。でも力には勝てなかった。そして無理矢理飲まされ、布団に突き飛ばされた。
意識が急に失われていく。その間にその男は私の服を無理矢理脱がせていた。でも抵抗出来なかった。
薬の影響で力が入らない。されるがまま…。
そして男は私にのしかかってきた。私は働かない頭で察した。
ヤラれる!!と…。
意識が無くなる直前、私はその男に向かって叫んだ。「せめて避妊して!コンドームつけて!」
そして私は完全に意識を無くした。
翌朝身体中が痛くて目が覚めた。頭痛も酷い。
ぼんやりしているとあの男はまだいた。
そして私に「もう一回シヨうよ!」と身体に触った。私は昨日の事を思い出して全力で暴れた。
そしてその男を部屋から叩き出して鍵をかけた。
途中から記憶が無い。
しばらくして部屋の片隅にフリスクと薬のゴミが落ちていた。そして…
布団のシーツにはあちこち血が付いていた。
身体中が痛い…。ヒリヒリする。
でも記憶は無い。
私は状況がよく分からなかったが、急いで血の付いたシーツとフリスク、薬を全部ゴミ袋に入れお風呂に入った。
熱いシャワーを浴びながら身体中を隅々まで何度も洗った。そうするうちに昨日の記憶を思い出した。
でも意識が無くなるまでだ。
最中の記憶が無い。
私の最後の記憶は男に向かって「せめて避妊しろ」と言ったところで終わっている。
後はどうしても思い出せない。とりあえずその男の先輩でもあり私の元同級生で友人の子に電話をした。本当にその男は何者なのか知りたかったから。
友人には昨日の事は言わずに男の事を遠回しに聞いてみた。確かに男は友人の後輩だった。
でも私はその男を知らない。同級生だったとしても一言も喋った事が無く接点が全く無い。
それからしばらくして知らない番号から電話がかかってきた。あの男からだった。
電話は一日に何度もかかってきた。
忘れようと荷造りをせっせとしているのに邪魔だった。だってその男の電話の内容はまたヤラせろという内容だったから。
着信拒否しても知らない番号で何度もかかってくる。もう少しで引っ越すのに邪魔だから私は友人に
電話をした。あの夜の事を話してこういう電話をかけてくるから荷造りの邪魔だ。かけてこないよう言ってくれと頼んだ。
友人は泣いていた。何度も私に「ごめんね、ごめんね…」と謝りながらこんな事絶対させないと約束してくれた。
私は友人が何故謝るのか分からなかった。
何故なら私には自覚が無かったから。無意識にあの夜の事は無かった事にしていたから。
認識してしまうのが怖かったから。
だから思い出すのを拒否した。
そして私は実家に帰った。
後日友人からその男が精神科に勤めていた頃の後輩だと手紙が来たが返事は書かなかった。知らないフリをした。
でも私は日常生活が送れなくなった。食べない、寝ない、暴れる、悲鳴を上げる…。
その原因があの夜の事だと分かっていたけど認めるのが嫌だった。
続く…
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