第7話

私は助産師になるのが夢だった。その為に産婦人科で働きながら看護専門学校に通っていた。

産婦人科…。毎日とまではいかないが出産に立ち会う機会が多いと思っていた。でも実際初めて立ち会った出産の機会は死産の出産だった。


産声の聞こえない出産。啜り泣く声が聞こえる分娩室。そんなショックな出産が二回も続いた。後はひたすら中絶の手術…。


産婦人科には様々な理由、年代の方々がやって来る。私は学生なので立ち会うといっても助手のような事しか出来ない。でも目を逸らす事は許されない。望まない妊娠で中絶手術を希望する人達の年代も様々だった。


私が助手をした中絶手術を受けた一番若い子は中学1年の13歳の子だった。夏休みが明け、十月中旬頃に初来院し妊娠が分かった。


妊娠を告げられたその子は笑って「最悪〜!失敗しちゃったんだぁ〜」と大して大事とは捉えていなかった。そしてその子は「妊娠って簡単にするんですねぇ〜」と悪びれる様子もなくただ避妊に失敗した事をちょっとした失敗と捉えていた。


中絶手術するには同意書が必要だ。相手の名前と住所と印鑑。本人、保護者の名前と住所と印鑑が書かれた同意書だ。


それを真面目に書いてくる未成年の子達はかなり少なかった。ほとんど自分で書いて偽装した同意書を持ってくる。



手術当日付き添い人は大体友達の子か保護者だ。相手の男の子を見た事は無い。


手術は大体30分くらいで終わる。中絶手術の内容は最悪だった。麻酔をした後器具で子宮口をこじ開けエコー無し手探りで赤ちゃんを耳かきのような器具でひたすら掻き出す。赤ちゃんは血肉の塊でバラバラになって掻き出される。ほぼ医師の勘で行われる。私の勤めていた産婦人科ではそんな中絶手術だった。他にも赤ちゃんを吸引する中絶手術もあるがどちらにしても赤ちゃんはバラバラで出てくる。


掻き出されたバラバラの赤ちゃんはゴミ箱に捨てられる。死亡届など出さない。5カ月以上にならなければ届ける必要が無いからだ。5カ月未満の赤ちゃんは中絶手術と共に無かった事にされる。


中絶は壮絶な手術だった。それを私は助手していた。泣く事は許されなかった。患者の前で泣くと怒られる。そして手術の準備、後片付けするのは学生の私達の仕事だった。


私はその産婦人科をイジメで辞めた。他の看護師、先輩の壮絶なイジメにより心が折れ助産師の夢を諦めて辞めた。


出産に立ち会うより中絶手術の助手をする方が圧倒的に多かった。


この話を読んで中絶手術とは何かを考えてくれる事を切に願う。


望まない妊娠の先に何があるのか知らない人は多い。中絶手術とはどんな事をするのか知らない方々がほとんどだろう。


産婦人科ではある意味「性」と言うより命のやり取りを見続けた。


私が何故こんなにもピルやアフターピル、望まない妊娠に避妊について書くのか…。


それはいつも女性が負担しているからだ。


妊娠するのは女性だから…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る