第8話 古(いにしえ)のステマが文化になるまで100年はかかる(3)

「ガロくん、多分だけど、彼はエルフの末裔みたい。」


「へぇ……容姿は普通だな。」


「きっと、潜在魔力だけ先祖返りしてるんだよ。不安定だけど凄い量の気を感じる。」


クラマと小声でぼそぼそ話し合いながら、オレも十一人目の生徒の彼をよく見てみる。二人のように視覚で捉えられるわけではないが、ヤバい感じがビンビンと伝わる。


全身にダイナマイトを巻き付けて歩いているくらいにはヤバい。今日まで暴発しなかったのは両親の育て方が良かったのか。


異世界エルドラドでは、人間が持つ根源の力は全て魔力と統一されている。回復魔法を使うときも魔力。神力とは言わない。神は武具や道具を与えて人を助けても、滅多には力を与えないらしい。何で魔力っていうのかはよくわからない。今度先生に聞こう。


変わって地球では、その質によって呼び名が変わる。しかも凄く多岐に渡る。霊気、妖気、覇気、瘴気。実は陰気や運気も異世界では魔力に換算される。


電気はどうだろう。モバイルバッテリーで魔力回復しようと思ったことが無いので分からないが、多少はできるかもしれない。


「霊気かな、クラマから感じる力の質と近い。」


「そうだね。先生、ボクが声をかけてみてもいい?」


「えぇ、助かります。私は既に一度断られていますので……彼の名前は宇賀 信太(うが しんた)くんといいます。」


名前を聞いたクラマが、レジにいた50代の女性に少しだけ呼んで貰えないかと聞いてみる。抜群のルックスから繰り出される甘え声は中高齢層に効果抜群だ! すぐ呼んできてくれた。


「おい、用事があるっていうのはお前らかよ? あ、いらっしゃっせー。お稲荷さん、お総菜コロッケ出来立てでーす! あのさ、オレは義務教育終わったらすぐに あ、らっしゃっせー!」


オレたちと背後を通る常連主婦とに交互に話しかけるので、テンションがおかしな事になっている。いつか間違えないだろうかとヒヤヒヤする。


「出直そっか?」


思わず聞いてしまった。


「いや、何度来られてもこま……こまっしゃっせー! アジフライもすぐ揚がりまーす! ……実家以外で働けるようになったら、すぐに商売をしたかったんだよ。商人の家系だからな。」


「そっか、逞しいな! あ、オレアジフライ好き。夕飯に買っていっていいか家に聞くから、クラマと話して待ってて」


どうせ持久戦だろうと、折角だから今日の夕飯に一品添えることにした。スマホのメッセージアプリで、母親とのメッセージに「スーパーで好きなおかずを買って帰っていい?アジフライ揚げたてです。」と送っておく。


「お、おぅ、クラマってのはお前か?」


「うん。そう。ウガくん、子供の頃から悩んでることがあるでしょ?」


「な……ねぇよ!」


「たぶん霊障スゴいでしょ? 今もキミの霊気に引き付けられたのがくっついてる。」


早速、メッセージアプリに着信が入っていた。「揚げ物・おはぎ〇、丼もの・弁当×、ついでに豆腐も買ってきて、木綿で。」と、スーパーに自社製おはぎがある確率の異常に高い。背面まで案が塗られているものと、背面はモチ米が剝き出しなもの。剥き出しなものはオハゲと呼んでいるが、ここのものはどうだろうか。


「……はい、取れた。」


「え、嘘?! 素手で取れんのそれ? ……あ。」


「やっぱり見えてるんだね。向こうじゃ精霊に好かれる魔力の質だけど、こっちじゃ霊気に変わっちゃうんだ。押さえ込む方法を覚えたほうがいい。」


「……学校で?」


「うん。」


思案に暮れている間に、どうやら話も佳境にいってしまっているようだ。オレも大事なことを伝えなければならないと口を開く。


「あ、アジフライ五尾で」


「あいよ!」


「学校来てくれる?」


「……あいよ!」


いつの間にやら学校に来てくれる流れになっていたようだ。やるなクラマ。


ウガは、霊気を抑える簡単なコツをクラマから伝授してもらっているらしい。オレも忘れないうちに頼まれた買い物を済ませ、今日のところはここで解散となった。

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