第7話 古(いにしえ)のステマが文化になるまで100年はかかる(2)
目的の駅に到着すると、大手のショッピングセンターを見つけて一階の飲食店を見て回ってみる。入り口付近には逆写真詐欺と呼ばれているフードメニューが大盛りの喫茶店と、世界一安いイタリアンと噂のファミレスがあった。
客層もオレたちと同じく高校生か、少し上の大学生が多いようだ。もう一か所、チェーン店の中でもお安めな喫茶店を見つけたが、そちらは主婦やサラリーマンが中心のようだ。同じ施設内のチェーン店でも、だいぶ住み分けがあるらしい。
女子二人はそれぞれの理由で、安価なイタリアンのファミレスに入ったことが無いらしく、予算的にも丁度良いので入ってみることにした。オトハは「ラファエロの天使だけが書かれていますわ。」とか、お嬢様らしい目で店内を見ていた。
席につくとメニュー表を見ながら、注文票にメニュー番号書き込む。クラマとオレは、安定のチキンとポテトとドリンクバー。女子二人は安すぎることに興奮して、バンバン注文しようとするが、さすがに量が多すぎるので、今日はデザートとドリンクだけで勘弁してもらう。
各々好きな飲み物を手元に、雑談に花を咲かせる。自然と公共の場でも話せる話題に落ち着き、周囲から見れば学校帰りの学生にしか見えないだろう。そういえばまだ出身を聞いたことが無いの思い出し、良い機会なので聞いてみることにした。
「そういえば、ヒメカはどこの出身?」
「あの……山のほう……。」
チラリとオトハと目配せをする。赤毛の三つ編みを手で弄りながら、少し上目遣いで自信なさげな様子はいつも変わらないが、何やら答えあぐねているようにも見えるし、ただ声が小さいだけかもしれない。山? 高尾山か、箱根と首を傾げると、それに合わせてヒメカも首を傾げる。
話が進まない様子に耐えかねたようで、オトハが代わりに答えてくれた。
「ヒメカは岡山にある鉄鋼会社の令嬢ですわ。私の従弟ですので、こちらに部屋を借りて一緒に住んでいますの。」
「そう。いっぱいお店があって楽しい。」
岡山駅は結構都会だった気がするが、あまり外出しないタイプだったのだろうか。まぁ、本人が今楽しそうであればいいかと、うんうんと頷いておくことにした。
「オトハちゃんのおばあちゃんに、今度お土産買っていくの。」
「お婆様にですの? ヒメカの事を気に入っているからなんでも喜びそうですけど」
「……たまごっち」
「フフッ……お婆さまがたまごっち……それでいきましょう。」
何が面白かったのか、オレとクラマは置いてけぼりだが、女子二人は家族ぐるみでうまくやっているようだ。
夕飯の邪魔にならない程度の食事を終えた頃には、家族でくるお客さんも増えてきて、運ばれていく料理もボリューミーなものが増えてきていた。そろそろ帰るころ合いだろう。
オトハがクレジットで支払い奢ろうとするのを止めて、綺麗に割り勘で勘定を済ませると店を出る。一階のほとんどを占めているスーパーに用がある買い物客で、ショッピングセンターの中は混んでいた。
ふと、視線を向けたお総菜コーナーで、見覚えのある人物が目に留める。どうやらクラマも気が付いたようで視線で示して小声で話しかけてくる。
「ガロくん。あれって、原江渡(はらえど)先生じゃない? 夕飯買いに来たのかな?」
「ほんとだ。ビックリさせてくるわ。」
留める三人を流して背後に近づき、ノーモーションで「わっ!」と声をかけてみるが、先生からのリアクションは無くそのまま固まる。「……先生?」と改めて声をかけると、ようやく気が付いたようで振り向いてくれた。
「あぁ、キミたち。申し訳ありません。少し考え事をしていました。」
「……能力使ってました?」
「キミは本当に勘がいいですね。これも察知できない類の能力なんですけれど」
先生は少し屈んでオレと視線を合わせると、お総菜コーナーの奥、キッチンがあるほうを指さす。そこにはパートのおばさまお姉さまに混ざって、総菜を調理している少年がいた。
「彼、まだ登校してきていない十一人目の生徒です。」
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