第4話 テンプレ異世界召喚はされるほうが恥ずかしい(終)

城門の上のバルコニーから聞こえた声に目を向ければ、豪華なマントと衣装でも隠せない筋肉に、ハリウッド俳優のように精悍な顔立ちの壮年がいた。


リックス共和国の王であり、祖母の弟の長男。オレの親戚のおじさんである。リックスは元々君主国だったが、相談役になっているウチのおやじから伝えられた地球の社会制度に感化され、国民が政治を学び経済を学び、学力を成長させるために共和制にした。


政治に関与できる余地を作るのは重要だと、王制を撤廃するという思い切った政策をしてしまった。逆に王制撤廃が嫌だと言い始めたのは国民のほうで、王様の人気や、王家が無いとライドウ家が助けに来てくれないんじゃないかという不安もあったようだ。


ここまで詳しく知っているのは、結局、王様の相談役であったうちのおやじが、「しばらくは王様が元首をやって、見本を示せばどうか?」と、落としどころを付けてきたと、祖父と夕飯の時に話しているのを聞いていたからだ。


リックス王はオレがここにいることに驚きながらも、いつもどおりの気軽な調子で話してくれる。


「よう、ガロ! またいつの間にか騒動の中心にいるじゃないか。城の異世界ゲートを使わずにどうやってここに来たんだ?」


「こんにちわおじさん、ちょっとエラルダ神聖国ってところのいたずらにまきこまれちゃって……いま上に行く」


巨人族の長さんには申し訳ないが、城門の上のバルコニーに、その大きな手を伸ばして送ってもらう。丁度いいから顔合わせだけでも済ませてしまおうと、巨人族の長を手招きしてリックス王を紹介する。


「おじさん、こちら北山の単眼族の長のベリリウスさん。」

「ベリリウスさん、こちらリックス共和国元首のアレクサンダー・エル・ド・リックス。みんなリックス王って呼んでる。」


二人が挨拶するのを眺めていたが、やっぱりベリリウスさんは耳が遠いようで、随分顔を近づけて話をしていた。


「ふむ、北山の単眼族が攻撃的な種族ではないと知っていたから様子を見ておったが、なるほど、わざわざ長自らが直談判に来てくれたとあれば、力になるのが筋であろう」


「リックス。リック・ザ・リックスに連なる者か。我ら同じ神代英傑の末裔として、争わずにすむと分かっただけでも行幸だ。」


「そうか! 初代と共に戦ったものの末裔とは!」


なんだか、おじさん同士の長い話になりそうな気配を感じる。親戚で集まったときの昔話ですら長いのに、神代まで遡られ、更に酒の席にでもなったら夜が明けてしまう。


「あの、おじさん。先にこっちの用件をすませたいんだけど、ほら、この制服。今日が高校の入学式だったんだ。」


「そうであったか。しかし十二年も勉学にいそしむとは、学者にでもなるのか? 貴族ですら家庭教師を含めて六年も学べば秀逸だぞ?」


「そう思うよね。異世界から見たら」


細かい数字はわからないが、有史以来で考えれば、ほとんどの学生が高校まで行くようになったのは最近と言っていいのだろう。社会の授業でも日本の法律の一部は、いまだに中卒で仕事をする人をベースにできていると聞いたことがある。


エルドラドの世界で、ほとんどの人が文字を読み書きできて、勉強が義務といえるくらいに生活が安定するには、まだまだ長い道のりがあるだろう。まぁ、「学校に通う義務」が苦しみになるという、不幸中の幸いならぬ、幸い中の不幸も、その道の先には待っているのだが


自分の高校入学にしみじみとしていたが、首を振ってそれどころではないというのを訴える。


「いやいや、それよりばあちゃんや母さんになにも伝えないでこっち来ちゃったし、明日学校行かなきゃいけないし」


「まてまて! 先にそれを言え! お前が叔母上様に怒られるのはよいが、俺まで巻き込まれたらたまらんぞ。」


「それじゃ、まずここに来た経緯を話させてよ。ベリリウスさんの悩みの解決にも関わってるから」


リックス王とベリリウスさんに向けて、これまで自分の身に起きたことを説明する。


高校の入学式の直後、同級生三人と共にエラルダ神聖国に召喚されたこと。召喚の理由は魔王を倒す勇者にしようとしていたこと。だが、全員がエルドラドに縁のあるものだったため、さっさと逃げ出したことを伝える。


「ガロよ。その同窓の子供たちは、助けに行かなくてもよいのか?」


「あぁ、女子二人もクラマも、下手したらオレと同じか、少し強いかもしれない。それに女の子の一人はこの近くの国のお姫さまで、クラマは地球に追い落とされたダークエルフの末裔だよ。」


話を聞いていた巨人の長であるベリリウスさんが、クラマの名前を聞いて目を見開く。


「ライドウよ。クラマとは、サナト・クマラの末裔か?」


「え? その人がダークエルフならそうなのかも?」


「……そうか、若い者はサナト・クマラを知らぬか。」


なにやらベリリウスさんとリックス王は深刻な表情で視線を合わせて頷きあう。オレだけ置いてけぼりなのだが、何やら勝手に決着がついたようだ。


「ベリリウス殿。エラルダ神聖国がエルドラド国連法に反して、無差別・無同意召喚を行った事。そして友好的な巨人族を討伐対象として異種族淘汰を試みたこと、ガロの証言とも一致する。我が国としても早急に対応をしようとは思うが……」


「リックス王よ。言わずともわかる。我らよりも適役が既に動いていると見受けられるが」


「然り。我々は支援の立場に徹する。事が済めば必ずお知らせしよう。」


「単眼の一族も、雷光鎚のシルバルスの名において助力いたす。その時は長老会ではなく、我らが最高の戦士が出向こう。」


「ではベリリウス殿、その盟約を持って事態の一時収束と致そう。宴の用意をするので、是非変えられる前に持て成しを」


どうやら良いところに落ち着いたようだが、どうも釈然としない。野暮用と言っていたクラマが何かをするっていうことか。まぁ、明日、学校に来たら聞いてみればよいかと、盛り上がっている二人に軽く挨拶をして、勝手知ったる王城のゲートに向かうのだった。


そういえば、自己紹介文を原稿用紙一枚で書いて来いって言われたっけ。


思い出して思わずため息が出てしまったが、それは地球に帰還後の話として、


無事にエルドラドから半日ほどで地球に帰還したのだった。

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