3年3組②

「お前、俺に殴り飛ばされた癖に何言ってやがる?見つけてやる?雑魚に見つけられるほど俺は弱くねぇ。」


 ベリドは怒った様子でニレイルに吐き捨てるように言う。だがニレイルは話しているベリドの方ではなく、ある1人の生徒に目が向かっていた。

 おそらく魔族であると思うのだが、特徴的な角は1つしかなく、翼も生えていない。髪は明るい茶髪で整った顔をしている少年だった。


「ああ、君か。さっきから魔法を使ってるのは」


 少年はなんのことか分からないといった表情をしている。だがニレイルにはわかる。これは経験からくるもの、沢山の魔族を殺してニレイルの魔力や魔法に対する感覚は他のものに比べて鋭くなっていた。


「まあ、それはいいや。今はベリド君が先かな。あの程度の攻撃で鬼族を名乗っているのなら君こそ死ぬぞ。」


 ベリドに火がついた。ベリドはニレイルに向かおうと立ち上がろうとした時、ベリドの肩に手が置かれる。


「てめぇ...!」


 手を置いたのはニレイル、力任せにベリドは立ち上がろうとするが、それは叶わない。ニレイルの手が重いのだ。


「とまあ、こんな感じに自分の能力を過信した奴が最初に死ぬ。客観的に自分の実力を考えて戦うか逃げるかの選択はできるようにしろ。」


 生徒は冷や冷やしていた。またあのベリドが暴れ出すかもしれないと思ったらこちらにも被害が出るかもしれないから。だがそれをニレイルは許さなかった。


「立ち上がっている奴の方が有利だろ!卑怯者!」

「殺される時も卑怯者なんて言えるのか?」


 ベリドの言葉にニレイルは圧で返す。ニレイルは最後に伝えようとしたのはこの事だった。


「戦いで勝つために必要なことはいかに卑怯なことや残忍なことをできるかだ。


 力があっても相手を殴ることが出来ない優しい人は必要な人材なんだろう。だがこと戦いに関しては弱者でしかない。


 卑怯でも残忍でも生きるためには命を選べ、それ以外は捨てろ。それがダンジョンで生きていくコツだ。」


 全員が息を飲み、ニレイルの方を見る。それだけで今日のこの話は最適だったことが伺える。ニレイルは教壇に戻ると先程とは打って変わって笑顔になりながら生徒たちに告げる。


「まあ安心してください。助けがいるようなら駆けつけます。


 強くなりたいなら教えます。安心しすぎるのも良くないですが緊張のし過ぎでは普段の動きもできません。不安だったら逃げてください。命あっての物種なので。」


 その言葉でニレイルの授業は幕を下ろした。後日、クレアに話を聞いてみるとどうやらニレイルの授業が功をなし、戦闘訓練の授業がいつになく真剣だったらしい。

 しかも評判もよくなんなら戦闘訓練も見てもらいたいという生徒がちらほらいた。

 放課後に教えて貰いに来るほどの熱心な生徒はいないにしても生徒たちが良い方向に向かっているのは良い事だと思う。


 ただ問題は魔族の少年のことだった。ニレイルは魔法の発動は感知できてもその効果や誰に向けられたのかまでは分からなかった。ただあの時彼は何かをしようとしたのは確かだったのだ。


 とにかく彼と会う時は警戒を怠らないようにするしか今のところできることはなかった。

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