第29話 スキルの拡張

「かはぁ!」


 職員が暮らす寮には個別に洗面台やお風呂が備え付けられていた。ニレイルは洗面台で血を吐き出す。今はスキルで特殊なグローブを作っていたところだった。


 スキルの拡張は全く新しいスキルが身につくという訳ではなく、そもそも持っているスキルの成長に近い。過度な成長は身体を蝕む。現に液体を想像できるようになった時も体に負荷がかかり血を吐き出していた記憶がある。

 だが成長だからこそスキルを使い続けて慣れる。そのためニレイルはスキルを慣らすために1日に1回、特殊な効果を持つ物体を想像していた。


 物体を創造していてわかったことがある。1つは創造できる効果。これはニレイルが知識として得ているものに限定される。例えばクロコのスキルは影の中に入ることと影を操ることが出来る。だからその効果を創造に反映することが出来た。もちろん効果を聞いたことがあるものも再現可能だった。

 ただ物体だけでなく自身の体に由来するものは使えない。先の戦いでは足袋、これは足袋からエルフの使う風の精霊魔法を放出している。神殺しの剣は対神に特化したもの。

 以前ニレイルは人間のスキルに剣聖というものがあることを知っている。それは剣を持つことで剣術が頭の中に思い浮かび、その通りに行動できるものだった。だがこの効果を発動させようにもできなかった。おそらく、剣自体の効果と言うよりニレイルの体に効果を発動させなければいけないからだろう。

 そして神殺しの剣を再現しようとしたがこれはできなかった。あの時は女神と相対していたからこそ女神を知ることができたのかもしれない。


 もう1つわかったこととして物体の耐久力が上げられる。ニレイルの創造は1日で物体が消えてなくなる。だから仮に水を創造して飲み干しても1日経てば体の中からニレイルが創造した分の水分が消えてなくなってしまう。

 だが効果を持つ物体に関しては10分程度しかもたない。ただこれは正確な時間ではない。ものによって時間がまちまちなのだ。10分より早いものもあれば20分続くものもあった。

 ニレイルがこの時間について立てた予想は3つ、1つはそもそも物体が効果を得ることに耐えきれないこと。だから効果が大きくなればなるほど保てる時間が短くなってしまった。

 2つ目は知識不足、神殺しの剣が創造できないように知識がきちんと得られていない状態での発動が不安定な可能性もある。

 そして3つ目がまだ体が慣れていないか。このスキルの拡張が起きて数日は経過しているものの体に大きな負担がかかり、まだ完全に扱いきれている訳ではなかった。だから創造の作りが甘い可能性だってあるのだ。


 そんなことを確かめながらニレイルは学校に行く準備を始める。と言っても持っていくようなものはほとんどない。掃除の道具は学校にある、なんなら作れさえする。事務仕事の手伝いも言われるまでは何も無いので、ニレイルは身なりを整えるだけだった。


 そういえば今日はクレア先生に授業に参加して欲しいと頼まれていた。ニレイルは授業のことを考えながら学校に向かうのだった。

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