竜神族の少女②

「ああ、俺が0番だ。」


 そこでやっとレイと目が合った。その瞳には涙を溜めている。最初は襲いかかって来るかと思った。だがそこで反撃はしない。ニレイルは自分が生きるよりも大切なものに気がついた。


「なぜ…なぜ父を、竜神族を滅ぼしたんですか?」

「俺は...生きたかったんだ。この世界で生きていくためには命令を聞くしかなかった。だから命令を...」

「ふざけないで!!命令で殺されていいような人なんてこの世にいない!なのに...なのに......」


 涙を流しながらレイは膝をつく。父が殺されたのが命令だからなど納得いかない。そんなことニレイルもわかっているのだろう。彼は辛そうな顔をする。

 レイは知っている、ニレイルは楽しむために殺すような人間ではないことを、他種族を差別するようなものでもないことを。だからこそ思ってしまう。ニレイルが屑だったらどれほど良かったか。


「私は...あなたが憎い!!でも......もう私はあなたを殺せない...どうしたらいいの?」


 レイにはもう分からなかった。ニレイルを殺したくない。でもそれではこのやり場のない気持ちをどうしたらいいのか分からなかった。


「俺のやったことを忘れろなんて言えない。殺さないでくれなんて言えない。


 …だから俺を見ていてくれ。俺の罪は重い。これからはその罪を償うつもりなんだ。俺がその気持ちをどうにかできるよう頑張るから。」


 いっそ殺された方が楽なのかもしれない。そうすれば何も考えなくていいから。でもそれじゃあここに来た意味はない。そうニレイルの中で、あの戦いの中で思ったのだ。生きたいんじゃなくてニレイルはもう死ねないのだ。


「君が...俺を大切に思ってくれるのなら、俺は君の大切なものを守り抜く。


 もし、君がもう耐えられないのなら喜んで俺は命を差し出そう。だから君は迷ってもいい。俺は君の気持ちを受け止めるから。」


 そんなことズルい。そんな優しさがズルい。そんな顔がズルい。だから私は殺したくないのに、そんな姿が父と重なってしまうのだから。


「ズルい!ズルい!ズルい!あなたがお父さんと重なるから!あなたがお父さんを奪ったくせに!!」


 今ならわかる。レイは父が大好きだった。厳しいながらも不器用な優しさを見せてくれた父が大好きだった。


「俺はあの人の代わりにはなれない。でも君にあの人と同じ愛情を注いでいこう。」


 ああ、この人は。今は今だけは父親がいて欲しかった。レイは子供のように泣きながらニレイルに抱きついた。ニレイルも優しく抱擁を返す。


「私ね、私今まで頑張ったんだ...。ずっと1人で......!」

「ああ、知ってるよ。」


 訓練場にレイの泣く声が響き渡った。

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