戦う理由②

 戦いながら考えていた。このまま女神に殺されたらレイの気は晴れるのではないだろうか。ニレイルはまだ迷っていた。虫や家畜と同じように人も他種族も殺せる自分は今死ねば周りを助けつつ贖罪もできるのではないだろうか。

 女神に決定打を与えられず、こちらは攻撃を受け続けている。身体中から血を流しながら意識を手放さないように歯を食いしばっている。

 死にたくないのは本当、だが死にたいのも本当だと思う。本能で生きることを選びながら理性では死を望む。


 それに加えてレイのあの表情だ。今まで大切な人なんていなかった。周りはみんな道具であり、情など移らない。それでもサリアにあってクーにあって、レイにあって人としての関係に喜びを感じた。

 大切にしたいと思った。それこそ自分の命を失ってもいいと思えるほどに。だと言うのにレイにあんな悲しそうな顔をさせてしまった。


(ここで死ぬのが1番かもな...)


 幸か不幸かニレイルにはもう死ぬ覚悟ができてしまった。大切な人ができたからこそ命を失うことももう怖くはなかった、怖くはなかったのに...。


 ━━━━━━━━負けないで、お父さん。


 レイの言葉が覚悟を揺らす。戦いの最中だがレイの方に目を向ける。彼女の瞳はこちらを恨んでいるような目をしていない。悲しく、辛く、助けを求めているようなそんな目だった。

 それに父を殺した相手に父を重ねているなんて...。


「おや?泣いているのかい?」


 ニレイルの瞳から涙が溢れていた。女神からの指摘で涙に気がつく。ああそうだ、死ぬ覚悟ももうできている。でも死なないで良いのなら、生きたい。少なくともこんなよく分からない神に殺されるくらいならレイとしっかり話し合いたい。その上で自分の命がどうなろうとどうでも良い。今大事なのはレイと話すことだ。


「おい?なんで今笑っている。」


 先程まで笑顔だった女神が不機嫌に聞く。どうやらニレイルは笑っていたらしい。


「初めてなんだ。戦う理由が殺すため、じゃなくて負けないために戦うのが。この先にある未来のために戦うことが嬉しいんだ。」


 人間の権能は進化と言っても良い。気の扱いは努力次第で強くなる。そしてスキルの方も修羅場を迎えることで稀に覚醒することがある。ただこの覚醒は新しいスキルが増えるとかでは無い。

 それは机上の空論のようなもの。知識があるから物体ではなく液体を創造するような、スキルの拡張というのが相応しい。


「スキル:創造、疾風の足袋」


 靴を脱ぎ、足袋を創造する。ただこの足袋は特殊なもの。

 以前相手をしたエルフの相手。彼は精霊魔法で風を操り、自身の速度を上げていた。その力を足袋に収束させる。


「俺は神も。それは弱点を知っていることに等しいんだ。」


 そんなことは無い。でも今ならなんだかできる気がする。ニレイルは剣を創造する。神々しい女神とは対象的な禍々しいオーラを発した剣を右手に出現させた。


「これは...神殺しの剣、もう俺はお前に負けない。」


 女神も感じる。あの剣は自分を殺しうる力を持っている。そして思い出す、確か知り合いの神が話していた気がする。1人、厄介そうな人間がいたことを。その人間は何も無い所から物体を生み出していたことを。


「貴様かァァァ!!」


 初めて女神が慌てる。あいつは神の領域にさえ届きうる。そんなことは許されない。またしても光線を放つのだが、放った先にニレイルはいなかった。


(あの人間!どこに━━━━━━)


 考えが纏まる前に女神は肩から斜めに切り裂かれたのだった。

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