第25話 戦う理由

 ニレイルは2本のナイフを生み出し、姿勢を低く構える。以前神と戦った時は他にも仲間がいた。総勢50人のニレイルと同じような立場の者たちで戦ってやっと神を撃退できたのだ。

 ただ今この場でその戦いについて来れそうなのが、サリア、ベロニカ、グラドぐらいだ。ヘイルは強いが今の状態では足でまといにしかならない。アメリアとレイは論外だ。

 それに前回は言ってしまえば死んでもいい仲間、だが今この場にいるのは絶対に死んで欲しくない人たち、奴の狙いが自分だけなら巻き込む必要はない。最悪自分が死ねば奴は帰るのだ。


(殺す。)


 だがニレイルとて簡単に死ぬつもりは無い。余計なことはもう考えない。もう相手を殺すこと、今まで生きてきた経験から培った本能で戦う。

 地を這うように女神に近づく、女神から無数の光線が屈折しながらニレイルに迫る。光線を避けながら女神の前に立ち、ナイフを逆手に持った右手で女神の腕を刺す。その後、左手のナイフで女神の首を斬りつけた。だが左手のナイフは女神の首を斬りながらも喉の中心辺りで止まってしまう。

 右手のナイフも女神の体から抜けない。仕方なくナイフから手を離し、右手で首に刺さったナイフを殴りつける。ナイフは更に深々と刺さるのだが、女神は笑ったままだった。


「おやおや、可愛い攻撃だねぇ」


 女神の右手がニレイルの腹部に触れる。その瞬間、ニレイルは後ろに大きく跳ぶのだが間に合わない。女神の右手から放たれた衝撃が身体中に巡る。全身が震えるような衝撃に穴という穴から血が流れる。体が熱い、だがまだ戦える。間髪入れずにまた先程の光線が放たれる。だが今度は避けない。光に合わせてニレイルは鏡を生み出した。向かう先は女神の方、ニレイルの予想通り、光線は女神の方に向かうのだが、光線に当たっても女神は特に気にしない。


「まさか自分の攻撃で傷を負うとでも?浅はかだねぇ。」


 ニレイルが刺したナイフも体から自然と抜け落ち、傷口も塞がっていく。ニレイルは以前神と戦ったとはいったものの勝った訳では無い。


 以前は魔族が召喚した神と戦った。何人かで徒党を組み、大規模な魔法で神が出現した。ただ魔族たちの力が足りず、戦ったのは10分間、その間は攻撃しつつも回避に専念していたのだ。

 だが今はそれはできない。ニレイルはまたナイフを生み出すと女神の方に向かうのだった。





 一方、サリアたちは遠くからニレイルの戦いを見ていた。どうやってもレイやアメリアは力不足、だが守るべき生徒として保護しなければならない。それに奴の狙いはニレイルただ1人、こちらには目も向けなかった。

 サリアはそれが悔しかった。ニレイルは強い、強すぎる故、サリアでは隣に立てない。サリアは彼を助けたいと思っているのに足が動かなかった。勝つ未来が見えないのだ。


 それはレイも同じだった。だがサリアとは思いが違う。悔しいとか恐怖とかではない。ただただ困惑、ニレイルがまだ0番だということに自分の思いが追いついていないのだ。いやどうすればいいのか分からなかった。




 最初はニレイルの事が、人間が嫌いだった。私の大切なものを奪った0番と同じ人間、この学校に入りさらに人間のことについて知れば知るほど嫌いになった。

 初めてニレイルと話した時も思いは変わらない。ただ戦ってみて、彼の強さに触れて自分の弱さに怒りが湧き上がっていたのを覚えている。

 0番を殺したいのにそれより弱い人間であるニレイルにさえ自分は勝てないのだ。そして彼からの提案、特訓してくれるという提案は屈辱的だった。

 嫌いな人間に協力してもらうなどプライドが許さない。でも彼の言葉からなりふり構っていられなかった。

 ニレイルと特訓してから彼の人となりに触れた。どうやら自分が思っているよりも悪い人間ではないような気がした。戦いは厳しいがかけてくれる言葉は優しい。この特訓で強くなることを実感すると共にニレイルの特訓と父との訓練が重なった。…正直嬉しかった。家族との思い出を呼び起こしてくれるから、それと同時に寂しさも感じた。

 極めつけは学校統一大会のこと。ニレイルが父として参加してくれるらしい。最初は戸惑っていた。そんなことされては本当の父が恋しくなってしまう。でも家族の愛を確かめられるかもしれない。もう去年みたいな寂しい想いをしなくても良いかもしれない。そして復讐心が和らいでしまうかもしれない恐ろしさを感じた。

 そしてその恐ろしさが実現してしまう。彼を0番だと先程知って、絶望した。殺したい相手であるのは確か、でも私はニレイルを知っている。今だって私のために戦ってくれた、ガノフとの戦いで助けてくれた......時折罪悪感で押し潰されそうな顔をして話しかけてくれることを思い出した。


(私は...ニレイル先生に......。)


 重なったのだ、私のために厳しくしてくれていた父の顔とニレイルの罪悪感に染まった顔が。

 私のことを思って接してくれていたことに父と同じ愛を感じていた。だから生前に出来なかった父へのプレゼントを送ったのだ。ニレイルと父を重ねて...。


 どうしたいかなんて分からない。0番に復讐を果たしたい、でもニレイルには死んで欲しくない。それなら...どちらを選んでもやるなら自分、だから......。


「負けないでよ!!!!」


 涙を流しながら今も戦っているニレイルに叫ぶ。思い返せば厳しい父のことを嫌いになったこともある。0番の比では無いにしてもニレイルは父と似た立場にいた。父と同じような顔を、父に感じていた同じようなレイの気持ちをニレイルから感じていた。

 だからお父さんといった。辛い時、そばにいたのはやはり偉大な父だったのだから。

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