第21話 人が好きな兎人族
「これはどう?」
小柄な少女の冒険者、ルビィは体から黒い触手を出現させた。これが彼女のスキル、触手を操り相手を攻撃する。触手は無限に生成でき、なおかつ触手が切られてもダメージは無い。
欠点があるとすれば伸びる距離に限界があることだ。ルビィは現在は3本の触手を操っていた。
迫り来る3本の触手、だがそれを敵対するクレアは全て蹴りつけ触手を破壊したのだ。
兎人族の権能はその脚力にある。跳躍や蹴りの威力は他の追随を許さない。そしてもう1つ特徴的なのは...。
「嘘でしょ!?これも避けたの!?」
ルビィはクレアの死角から触手を地面に潜り込ませ下から突き上げるようにクレアの下から迫ってきたのだが、クレアはそれを難なく避けた。
兎人族は危機感知に非常に優れた種族だった。それ故、人間から受けた被害も少ない。自分たちに害を与えようものならすぐさま逃げることが可能だからだ。
敵と戦ってからずっと逃げていた。それはクレアが相手を傷つけたくないと優しい心を持っていたからだ。
「あの...襲わないなら......見逃します...。」
クレアはオドオドしながらルビィに話しかける。兎人族は臆病なものが多く、人見知りが激しい。そして被害もまだ出てないことから人間に対してまだ協力し合えるという考えのものが多かった。
クレアは人間が好きだった。だからこそサリアの意見に賛同し、この学校で教鞭を取っているし、相手が賊であっても傷つけたくは無い。
「甘いなぁ、うん甘いよ、あなた」
ルビィは更に触手を増やす。操作の繊細さは欠けてしまうもののその膨大な物量でクレアを襲う。無数の触手がルビィから直線上にクレアに向かって放たれる。
クレアは大きく横に跳び、触手を避けるそして触手はそのまま進んでいく。
「まずい!」
クレアは焦ったように触手の前に出た。ここは店内、放課後であり生徒たちは寮に帰っているものが多いのだが、店内の店員は違う。
店員は戦闘が得意なものばかりではなく、むしろ守られる側、クレアは店員を庇うように触手と店員の間に立った。
(ああ、もう無理かも。)
彼女は自分の死期を悟った。あの触手は強い。兎人族は頑丈な体を持っている訳でもない。目を瞑り、触手が迫るのを待つだけだったのだが...。
クレアに当たる前に巨大な轟音が鳴り響いた。目を開けるとそこには右手で盾を持ち触手を防ぎ、左腕におそらく敵と思わしき黒装束を着た男を抱えたニレイルの姿があった。
「大丈夫ですか?」
ニレイルが落ち着いた声で話しかけてくれる。緊張してクレアは目を逸らし頷く。ニレイルに悪い印象はないもののやはりまだ人見知りしてしまう。
「お前!リーダーになんてことを!」
ルビィは怒りを露わにしてニレイルに怒鳴りつけた。だがそんなことをニレイルは気にしない。今は寮の方が心配だ。
気の操作で戦況は確認しているが、どうやら2人では勝てそうにも無い。
「ちょっとお前に構ってる暇はない。降伏するかはもう聞かない。潔く首を出してくれると助かる。」
次の瞬間、ニレイルはルビィの横に立っていた。ルビィはニレイルを捉えられない。普段触手で戦っているため近接戦が苦手らしく、少女は呆気なくニレイルによって意識を刈り取られたのだった。
「クレア先生、僕は先に寮に向かいます。商店街の方で生徒がいたら保護してあげてください。」
ニレイルはそれだけ言うとルビィとクロコを抱え、寮の方へ走り出すのだった。
「あの人...あれで0番なんて」
駆け出して行ったニレイルの背を見つめながらクレアは考える。なぜニレイルは人を殺していたのだろうか。
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