第19話 寮長

 寮、学校、商店街はまとめているものが違う。全体は学校の敷地になるのでサリアが治めていると言っても過言では無いが、寮と商店街についての発言権の大きさは彼女よりも大きな者がいる。

 商店街は個人が店を出しているのでその個人が選んだ代表が取りまとめており、量に関しては完全にヘイルの手中に収まっている。

 ヘイルもまた同じように寮を自身で作り、魔力を貯蔵していた。学校でのサリアと同じようなことがヘイルはできる。

 サリアと違うことは生徒を守る意思はあるものの自分の欲に忠実であること。故に。


「おら!どうした!」


 ヘイルは武器を敵に振りかざし、一方的に攻撃を行っていた。敵はAランクの冒険者であるがそれでも手も足も出なかった。

 彼にあるのは眠りを邪魔された怒りのみ、その矛先は1人の敵に向けられていた。いわばこれは八つ当たりであったのだ。だからこそ1人しか相手をしない。複数人であったら負ける可能性があるからだ。


(こいつ...楽しんでいる!)


 Aランクの冒険者は攻撃を受けながらもなんとか打開策を模索する。だがどことなくだが体が重く感じる。いつものような動きができない。これはヘイルの魔法なのだがそんなことには気づけない。

 なんとかガードはしているものの、ヘイルの攻撃は重く、ダメージは蓄積され続けていた。

 とうに腕は折れており、彼の頭の中ではどうかやってこの修羅場から逃げ切るのかで頭がいっぱいだったのだが...。


「もしかして、逃げれると思っているのか?僕から?舐められたもんだなぁ!!」


 ヘイルは先端に鉄球が付いた棒を思いっきり振り下ろす。避けることも出来ず、折れた両腕でなんとか防ぐのだが、その衝撃が地面にまで伝わる。

 本来なら地面も砕けているはずだが、この寮の地面は明らかに普通の建物の床とは違い硬く、衝撃が全て敵に集まってしまう。


 身体中から大量の血を流しながら、朦朧とする意識の中で考える。こいつは...強い。彼は責任感が強かった。だからこそヘイルはここで倒さなければ仲間に被害が及ぶと思った。


「劣等種がぁぁぁ!!!!」


 最後の力を振り絞り、力なくヘイルに抱きついた。その様子にヘイルは嫌気がさした。


「おいおい、それで終わりかよ。もういい、さようなら。」


 最後の最後に攻撃が来るかと思ったらただこちらに纏わりついただけ。気づけばもう怒りも収まった、トドメを誘うとしたその時だった。


「がはぁ!」


 ヘイルが血を吐き出した。

 この冒険者は戦いが強い訳では無い。だがAランクという立ち位置にいるのは一重にスキルが大きかった。

 彼のスキルは共有、自身が受けたダメージを相手にも与えるという能力だった。発動には相手に触れている必要がある。ヘイルの敗北は気分に任せてトドメを先延ばしにしたことだった。

 ヘイルは意識を失いその場に倒れた。そして冒険者もその場に倒れ込む。彼のスキルは共有であり、相手に押し付けるものでは無い。だからダメージが回復することは無い。だからAランク止まりだった。

 だがスキルは破格、単にダメージを返すというものでは無い。それであったら自分より生命力溢れる魔族が倒れる訳がないのだ。

 ダメージを受けた自身の状態と相手の状態を同じにすると言った方が正しいのだろう。分かりやすく言うと要は固定ダメージではなく、割合ダメージであった訳だ。


 そんなことも露知らず、2人は意識を失い倒れ込むのだった。そしてヘイルが展開していた寮内にいた敵のデバフ魔法もここで途切れてしまった。

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