侵入者②

 ニレイルはサリアの声を聞き、一気に気を学校の敷地内に張り巡らせる。学校の敷地は半径1.5kmの円のような形をしている。学校と寮が生徒たちの娯楽や生活用品の売ってある商店街を挟む形だ。サリアとニレイルがお酒を飲んだ店があるのもこの商店街だ。

 気を使い敵の位置を確認する。1人は敷地の端辺り、商店街の位置にいる。それ以外は3人組で行動しているようだ。3人が学校付近、3人が商店街、そしてもう3人が寮にいる。

 ニレイルは考える。近くの敵を潰すか、それとも守りの不安な寮に行くか。現在は放課後、多くの生徒が寮か商店街にいる。どう動くか迷っていた時だった。


『伝え忘れていた。学校付近にきた侵入者は私1人で十分だ。教員は即刻、商店街、寮に向かうように』


 それだけ言うと魔法の気配がした。おそらくサリアの魔法だろう。探索の類だとは思うが。それなら安心して商店街の方に迎える。

 ニレイルは商店街の方向に向かうのだった。





「さて。ベロニカ、生徒が心配だ。すぐに寮へ向かってくれ。」

「承知しました。失礼します。」


 学校長室でサリアは椅子に座りながら、隣に立つベロニカに指示を出す。ベロニカは一礼すると窓からすぐさま寮の方に飛んで行った。


「さてと...私の学校に来たのだ。その不幸を呪うが良いさ。」


 そう言うとサリアは指を1回鳴らす。すると目の前にくろい服を着た3人の人間が現れる。これは彼女の瞬間移動の魔法、学校内限定の魔法だが、誰でも出来る訳じゃない。それが彼女の才能を物語っている。学校内において彼女は最強だった。3人の人間は何が起きたか分からない。

 だが目の前にいるのは殺すべき他種族なのはわかる。3人は臨戦態勢に入った。


「一応警告しておくぞ。何もせず、私が聞きたいことを聞けるなら痛い目に会わずに済むのだが...?」


 3人は黙ったままだった。だが解答は目に見えている。サリアは1つため息をついて話しかける。


「実力差も分からないとは。良いだろう、多少は痛い目を見るが良い。」





 サリアの侵入者の知らせはもちろん、商店街のものたちにも聞こえていた。夜の営業に向けて準備中だった男はお客さんに出すためのグラスを磨いていた。

 そんな中、店の扉が壊れる音がした。どうやら侵入者が自分の店に来たらしい。


「おや?ここは酒場かい?そうだなぁ、酒を奪うのも悪くは無い。」


 黒い装束を身に纏いつつも、その体型、声からして女性であることはわかる。酒場の店主はため息をつきながら女性に話しかける。


「まだ開店準備中ですが?」

「おや?まさか平和ボケかい?私は敵だぞ?」


 やれやれ、どうやら彼女は襲ってくるようだった。仕方がない。彼女は殺そう。幸い、自分を拾ってくれたサリアからは敵だと思う人間は命令のない限り殺しても良いらしい。出来れば生け捕りの方が良いのだが。


「そうですか。私は加減なんて知らないのでね。殺します。」





(なんだ!今の気配!ここはやばいぞ!)


 今回のAランクパーティーは黒い星という名のパーティーだった。全員が黒い装束に身を纏い暗殺や偵察に長けたものたちで構成されている。もちろんその戦闘力も高く全員がCランク以上の冒険者だった。

 中でも今焦っているリーダーのクロコはSランクの実力を持つ。だが彼は自分をSランクとは思わない。SSランクは圧倒的な偉業を成したものにしか与えられない。それこそ神の名のつく種族、またはその神自体を殺せるようなものにしか与えられない。

 そのことからSSランクなど今の1人が出るまで誰一人として慣れていないランクだ。

 それゆえ実質的にSランクが最上位として扱われる。そしてSランク冒険者は二極化する。

 1つは圧倒的な力を、それこそSSランクの力に届きうる人物がソロで活動する場合、そしてクロコのようにそう言う化け物を見た故、自分より下のランクの冒険者を束ねてパーティーを結成する場合だ。

 今感じたのはそんな化け物と張り合う、もしかしたらそれ以上の敵の気配、クロコは一目散に逃げ出していた。


「やっぱりお前が1番強いな。」


 クロコの後ろから声がする。だがそんなはずは無いのだ。クロコのスキルは影、影を操り影に身を潜めることができるのだ。だから本来認識できるはずがないのだ、影に潜っている自分のことなど。


「俺の気に反応したのはお前だけだったよ。俺は寮の方にも向かわなきゃ行けないんだ。大人しく投降してくれると助かるんだが?」


 クロコは観念して影から姿を現す。そしてニレイルを見て絶望してしまう。なぜなら彼は本来死んでいる大罪人を目にしているのだから。


「お前は...死刑だったはずだろ!!」


 ニレイルの過去を知るものが敵として相対した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る