第15話 侵入者

 ニレイルの介入後、決着は引き分けという形になった。そもそも介入自体が戦闘の終了を意味する。だがその時は反感が多かった。まず保護者の中で人間がいることを認めないという声が多かった。だがそれと同じくらいにに戦闘をもっと見たかったと言う声も上がり、サリアがその2つの説明をした。

 ニレイルは他種族に友好的なものであり、戦いに関しては先生の介入が、両者に深手を追わせるものという判断であるのでこれ以上は生徒が壊れてしまうということ。

 サリアの発言に納得したものは少ないが、それでも学校長の発言は大きく、反対するものの言葉を飲み込むものがほとんどだった。


 そこからまたいつも通りの日常を繰り返す。いや、ひとつ変わったことがある。それはレイについてだ。あれから特訓に更に精を出すようになった。それにレイに声をかける生徒も多いらしい。

 レイも満更では無いらしく、仲良くなった生徒もちらほら出てきていた。

 彼女は家族を奪われた分、人との関わりに飢えていると言える。故に近寄る級友を無下にはできず、話しているうちに仲良くなったのだろう。

 だからといって特訓も蔑ろにする訳でもないのでニレイルから言うことはない。まあ蔑ろにされても何も言わないが。


「よし、今日のところはこれまでだな。また明日続きをやろう。」


 いつものように特訓を終わらせるとレイが何やらモジモジし始めた。こんなレイは初めて見る。少し心配になり、レイに声をかける。


「どうした?なにかあるのか?」

「いえ...その......これ!」


 レイは走ってカバンを持ってくると中から小包を取り出し、頬を赤らめながらニレイルに手渡す。受け取ったニレイルは小包を開けると中からハンカチが出てきた。よく見てみると端っこにニレイルの名前と花が刺繍されている。


「特訓もそうですが、学校統一大会でのことも兼ねてお礼です。趣味と違うなら使わなくても...」


 どうやら感謝の印らしい。これは学校の敷地内で売られているもの。だが名前と花はどうやらレイが刺繍してくれたのだろう。ニレイルは嬉しくなりレイの頭を撫でながら思いを伝える。


「ありがとう。こんなに嬉しい贈り物は初めてだ。本当に...。」

「……それじゃ!」


 レイは照れたのかそそくさと帰っていった。ニレイルはそれを見送ってからハンカチに目を落とす。

 人からこういったものを貰ったのは本当に初めてだった。いつも誰かから貰うのは命令に必要なものだったり、誰かを傷つけるものだったりする。

 だがそれと同時に罪悪感を募らせる。もし自分が竜神族を滅ぼしていなかったら、これを受け取るのは自分ではないから。


「…さあ、いつ言おうかな。」





 レイはハンカチをニレイルに送ってからすぐに寮に着いた。未だに頬は熱い。あんな贈り物をしたのは初めてだ。父にだって感謝を伝えたものは送ったことがない。いや...いつかは送りたいと思っただけだ。まさかそのいつかが来ないなんて考えもしなかった。そんなことを考えていると前から女性が歩いてこちらに向かってきた。

 その姿を忘れたことはない。何せこの学校の生徒で初めて苦戦をした相手だからだ。


「あなた、今日もあのニレイルと特訓をしてたんですか?」


 アメリアが少し睨みながら話しかけてくる。言葉の棘が気になりつつもレイは答える。


「別に良いじゃないですか。それで強くなるのなら。」

「いえ、悪いと言ってる訳ではありません。ただ信用しすぎるな、と。彼は人間ですよ?」


 違う!彼は悪い人間じゃない!レイはそう言いたかったが、その言葉はまた別の方向から聞こえた声に遮られる。


「ほお?魔族にお前は...なんの種族だ?」


 アメリアとレイは声のする方向を見た。すると背中に巨大な大剣を携えた大男が現れた。男は蓄えられた立派な髭を触りながらつぶやく。


「ここは間違いだったかな?強そうなやつが1人も見当たらない。」


 その言葉にアメリアが少し苛つく。アメリアは自分が強いと思う。客観的に見てもそれは確かだ。そのプライドを今目の前の男は侮辱したのだ。だが、相手が誰かは分からない以上下手に攻撃はできないのだが。


『侵入者だ!数は10名!教員は生徒の保護と侵入者の捕獲を!生徒は自分の命だけ考えろ!』


 サリアの声が学校の敷地内に広がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る