学校統一大会③

 それから特訓の日々が続く。レイの中でどうするかまだしっかり決まっていないが、それでも特訓自体は行いたい。戦いながら時間が過ぎていく。時にはクーも参加していた。まあクーはそこまで真剣でもないので軽く体を動かす程度だった。


 そんなこんなで学校統一大会当日、レイは予選を勝ち進み、クラスの代表として選抜されたのだった。本戦はグラウンドに特設された舞台で行われる。

 1対1で戦い、降参、もしくは気絶した場合に決着がつく。真ん中に円形の舞台があり、そこを見下ろせるように観客席が設置されていたのだ。


 今日はニレイルにいつものような業務はない。代わりに医務室の手伝い、侵入者の警戒及び拘束、そして試合が危険だと感じた場合に生徒を守ることを指示されていた。

 とりあえずまだ本戦は開始されていないのでとりあえずぶらぶらとしていたその時だった。

 ニレイルの背後に悪寒が走る。前方に跳びながら後ろを振り返った。するとサリアと同じような色の角、翼、尻尾を持つ魔族の男性が現れた。

 だがサリアと違いその黄金の瞳は酷く冷たい。それに...この人は強い。


「娘の様子を見に来たら...まさか人間がいるとはな。」

「……。」


 男からの圧がます。ニレイルは無言で様子を伺っている。話から察するに相手は保護者、無理な戦いは避けたい。それに仮に戦うとなったら、無事では済まない。


「まあ、そんなに警戒するな。貴様が敵でない以上、攻撃はせん。」

「…あなたの名前を伺ってもよろしいですか?」

「そうだな。…いや、まだ私の名前は明かさない。そうだな、次会ったら教えよう。」


 それだけ言って男は去っていった。だが油断はしない。男の姿が消えるまでは警戒を解かなかった。やがて男が消えると、やっとニレイルは安心した。するとそこにベロニカがやってきた。


「どうしましたか?それよりそろそろ学校統一大会が始まりますので会場に付いてきてください。」

「わかりました。」


 ニレイルはベロニカと共に会場の中に入っていくのだった。





 その後、学校統一大会はつつがなく進んでいく。やはりレイは勝ち進んでおり、本戦も序盤は余裕だった。


 学校統一大会はまずクラス内で予選がある。そこでの勝者が本線に出場できる。各学年3クラス、6年生まであるので本戦では18人が戦うことになる。

 最初は同学年との戦いになるのだが、後半になるに連れ、勝ち進みさえすれば学年は離れていく。まあ学年が上がるほど訓練の内容も高度なものになり、高学年の方が強い傾向にある。

 イレギュラーなのはレイだった。ニレイルと今まで戦い続けていたら、生徒との戦いは正直物足りないものになる。苦戦することも無く戦いを勝ち進み、昼食の時間になった。

 ニレイルが戦いを止めるほど危ないような場面もなく、ここまでは順調に進んでいた。ニレイルも今の時間は昼食の時間だった。




(ああ、やっぱり今年も。)


 レイは1人、俯いたまま会場を歩いている。周りのものは家族が作ってくれていた弁当を一緒に幸せそうに食べている。それを見てレイはとても寂しくなった。本当なら私にも家族がいたはずなのに...。もう学校統一大会も頑張りたくない。今はもう誰とも会わずに1人になりたかった。

 そんな時に、頭に温かい感触を感じた。その感触の主を見上げるとそこにはニレイルが笑みを浮かべてたっていた。


「良かったぞ、戦い。一緒にご飯食べよう。」


 涙が溢れそうだった。こんな感覚は二度と感じることはできないと思っていたからだ。ニレイルに父の面影を感じてしまう。ああ、そうだ、私が欲しかったもの、奪われてしまったものがここにあるなんて。


「どうした?ほら一応俺が作ってきたから一緒に食べよう。」


 ニレイルの右手には大きな包みがあった。それを見せながらレイに問いかける。レイは頷くと2人でご飯を食べ始めるのだった。

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