第13話 特訓
「それじゃあ特訓始めよう...って言いたいところなんだけど。」
ニレイルは言葉を区切る。正直な話、ニレイルが教えられそうなことはあまりないのだ。ニレイルは創造というスキルから武器を扱いながら戦うことが得意だった。もちろん、武器が無くても戦える力はある。
ただスキルが使用できないような場面は限られており、今まで武器ありきの戦いを行ってきたのだ。素手での技などはそこまで詳しくは知らないし、レイに技は必要ないだろう。技に頼らなくてもその素の力だけでも脅威だった。
現に単純な力比べとなったら、ニレイルと拮抗はしてても最後にはやはりレイが勝つだろう。
「君はどういう風に強くなりたい?」
考えても仕方がない。レイの意見を取り入れつつ、特訓のメニューを考えることにした。
学校にも戦闘訓練がある。人間に襲われた時、自分の身を守れるようにどの学年にも必ずある。そこで同学年の生徒とも戦うのだが...負けた試しがない。先生は忙しく、授業のためレイだけを見るなんてことはできない。だからこそ今の今まで戦いに苦戦したことがなかった。父親以外に...。
自分の欠点も分からないままただ1人、努力を続けていたのだ、0番を殺すために。だからレイは思う。どうやって0番を殺したいのか。
「圧倒的な力でねじ伏せられるような強さが欲しいです。0番の攻撃も、罠も全て受けた上で、その上から正々堂々とねじ伏せられるだけの力です。」
希望を口にしたその瞳は暗く、復讐の闇は深い。分かってはいたが彼女は0番を酷く憎んでいた。
「そうか...。理由は聞いてもいいのか?」
「……竜神族を滅ぼされたんです。理不尽に。だから私も理不尽な暴力であいつを殺したい。」
復讐に燃えた心はもう誰にも止められないようだ。だが、ニレイルはただ彼女を強くするだけ。その後のことは彼女に決めてもらおう。
ひとまずレイの理想の姿は今の話で何となくわかった。その上で彼女に必要なこと...。
「君の力は強いよ。単純な力比べなら僕が負ける。そうなりたいのなら技を教えるとかじゃダメだと思う。
下地はできてる。あと君に足りないのは経験だ。これから僕が小細工を仕掛けた戦いをする。君はそれの対応を肌で覚えて戦えるようにしなさい。」
それだけ言うとニレイルは構える。それに合わせてレイも戦闘態勢になった。そこから両者が激突するのは言うまでもなかった。
「どうやら最近、レイに戦いを教えてるそうじゃないか。」
レイに戦いを教えて1週間程だろうか。放課後に訓練場から鳴り響く大きな音は学校にいるものなら誰でも知っている風景となっていた。それこそたまに様子を見に来るものがいるくらいだ。無論、今話しているサリアもこのことについては知っている。
2人は現在、学校の敷地内にあるバーにいた。今日もサリアが様子を知りたかったからだろう。
ニレイルはここに少し嫌な記憶しかない。今日はお酒を飲まずにサリアと話をしていた。
「そうですね。ああでもしないともう彼女とは話せなくなるような気がして」
注文したジュースを飲みながらニレイルは語る。ただこの一週間で仲良くなった気はしていない。彼女には話さなければいけないことがあるのだ。ただ今話せば結果は目に見えている。
「そうか...。別に逃げても良かったんじゃないか?その様子だと0番だったことは言ってないんだろ。そこで彼女が君に話さないようになれば問題なんてもう起きない。違うか?」
サリアは少し厳しい顔をした。彼女がニレイルにした注意はただ単にレイを避けるな、と言うだけだ。もちろん仲良くなった方が人間との共存という観点でレイには良い方向になるだろう。
だがそれは理想であって2人の事情を見たら最善ではないのは分かりきっていた。
ニレイルはジュースを飲みながらしばらく考える。やがて飲み終わると口を開いた。
「僕は......ここで彼女から距離をとったら...終わると思ったんです。ここでサリア様に拾われて、他種族の人達に償いをしたくて...。でもそんな思いも、一瞬で崩れ去る気がしたから。まあ今まで逃げてきたんですけどね」
自嘲気味にニレイル歯笑ってみせる。その笑みには深い悲しみが滲み出ていた。それとは対照的にサリアは慈愛に満ちた笑みをこぼした。だから彼を救ったのだ。
「君の思いはわかった。もはや私から言うことは何も無い。存分に頑張ってくれ。」
「そのつもりです。あ、あと今日は僕が払いますね。」
そこからどちらが払うか一悶着ありつつも、結局ニレイルが支払いを行い店を出た。2人で雑談を行いながら、寮に戻っていくとやがて別れることとなった。
「あ、そうだ。最後に...そろそろ学校統一大会が開かれるから。あと訓練場を壊すのは程々にな。」
それだけ言ってサリアは去っていくのだった。
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