遭遇③

 それから幾度となく拳を合わせるのだが、全力の少女に対して、ニレイルは余裕を持ったままだった。それほどまでに彼女と実力差がはっきりとしていた。

 彼女も弱くはない。おそらく同年代のものたちと比べるとやはり格が違うように思える。ただ竜神族、それ以外の種族についてもそうなのだが、長寿の種族は年齢に強さが比例していく。

 彼女はまだまだ若く、ニレイルが本気を出すほどの力はまだ無かった。


「ハァ、ハァ。」


 戦い続けて疲れたのか、少女は肩で息をしている。一方のニレイルは随分と余裕そうだった。そこにニレイルは言葉を畳み掛ける。


「噂しか聞いたことないけど...0番はもっと強いぞ。どうだ?僕に教えられないかい?」

「ハァ、ハァ...舐めないで...ください!」


 力を振り絞り、拳を殴りつけようとするが、ニレイルはもう避けようとすらしない。拳がニレイルの胸に当たるがビクともしない。それほど彼女は疲弊していた。


「厳しい現実を突きつけよう。今の君じゃ絶対に勝てない。」

「それでも......私は!必ず戦うんです!戦わなければいけないんです!」


 涙を流しながら話す少女の姿にニレイルの心が締め付けられる。正体を隠して、今度は師匠として彼女に近づこうとしている。彼女はこんなにも苦しそうな顔をしているのに自分は全く傷ついていない。


「なぁ...」

「うるさい!うるさい!うるさい!知らないくせに口出しするな!」


 力なくニレイルのことを殴り続ける。彼女もわかっているのだ、ここで勝てないようならあの0番には勝てない。何せ相手は人間最強ともいう者がいるくらいなのだから。

 だが、痛みのない拳は余計、ニレイルを精神的に痛めつけていた。


「…復讐は気分が晴れるかもしれないが、何も生まないぞ。」

「そんなの知ってる!でも、それじゃあ、父様が...!」

「君を想ってくれる人達はそんなこと望んでいないんじゃ?」

「うるさい!知ったような口を聞くな!私にはそんな人達もういない!」


 そこでいきなりニレイルは胸倉を掴んだ。この戦い、ニレイルはいなすだけだった。ここに来て初めてニレイルの方から少女に触れた。


「いるんだよ!少なくともサリア様は想ってくれてる!俺だってそうだ!」


 初めて見たニレイルの形相に少女の目が点になる。攻撃もやめ少し放心したような状態だった。だが、そんなことされても怒りしか湧いてこない。


「今日あったばかりなのに何故そんなこと言えるんですか?どうせ職員としての点数稼ぎなんでしょ?」

「違う!違うんだ...。」


 少女が嘲るようにニレイルに言葉を吐き出した。それを強く否定するが...ニレイルは悲しそうな顔をしながら少女から手を離す。そして少女に背を向けて訓練場の出口を目指す。


「君の復讐を止めようとは思わない。だからアドバイスをする。復讐ならなりふり構うな。復讐は正しい道でなんて考えるような崇高なものじゃない。


 俺なら必ず強くできるから、また明日も訓練場に来たら君を強くしてみせるよ。0番なんかよりも。」


 いや、もう強いかな。という言葉は飲み込んでニレイルはこの場を去っていくのだった。

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