遭遇②

ニレイルの目の前に1人の少女が現れた。腕や足は赤い鱗で覆われている。もちろんその角や尻尾も美しい深紅の色をしていた。そしてショートカットで白い髪が角の赤さを強調しているかのようだった。その姿にはニレイルが最後に見た竜神族の男の面影があった。

そんな彼女から核心に迫るような質問をされた。


「どうしたんですか?0番はやはり人間の間では有名なんですか?」


どう答えるべきかニレイルが考えていると、少女がさらに質問を重ねた。その言葉には苛立ちを感じられる。


「0番っていう人は人間の間でも有名ですからね。会ったことはありませんが、名前くらいなら聞いたことがあります。0番に何かあるんですか?」


慎重に言葉を選んで話していく。今は真実を伝えるべきではない。


「……それは先生に関係ないです。知らないのならもういいです。失礼します。」


踏み込みすぎたのか、少女は機嫌を悪くしたように言い放ち、その場を去ろうとしていた。直感的にこのままでは停滞したままだと思った。焦るようにニレイルは声をかける。


「君、名前は?命を散らすようなことはやめなよ?」

「……命を散らす?なんであなたはそう思ったんですか?」


先程までは不機嫌だった。だが、今は殺気を放ちながら話している。どうやら少女のニレイルに対する不信感がいっそう高まり、敵と認識し始めていたらしい。


「いや...君の目は復讐のそれだったから。」

「心配しなくても私は強いので。」

「そう...。じゃあ、俺と少し戦ってみてくれよ。そしたら名前を教えてくれる?」


止めなければ彼女との関係がここで終わってしまうのはわかっていた。だからニレイルはとある作戦を思いつく。

少女も心を言い当てられたのが余程不快だったのか、ストレス発散でもしたい気分だった。


「あなたに負けるような私ではありませんよ?」

「やってみたらわかるさ。」


ニレイルは挑発するように手招きをした。それが開戦の合図、すぐさま少女はニレイルに突っ込んでいく。鋭い少女の右手がニレイルを貫かんとする。凄まじい速さ、おそらく先の冒険者だったら対応できず即死していただろう。

だがニレイルにとっては脅威でもなんでもなかった。体を逸らし、少女の右手を掴む。そのまま強引に力の向きを変える。ニレイルの左手で少女の腹部を上に押しながら直進する少女を回転させた。

勢いは突進のまま少女の背中が地面に激突した。巨大な衝撃で地面にビビが入る。


「な?俺もなかなか強いでしょ?」

「舐めるな!人間!」


地面に背を着く少女がそのままニレイルの足を蹴ろうとするがその前にニレイルが動かせないよう足で相手の足を押さえ込んだ。


「この!」


少女はニレイルの足の拘束から抜けるとすぐさま立ち上がる。拳を握り、右手でニレイルを殴りつけるのだが、片手で容易に受け止められてしまった。


「私と力で互角なんですか!?人間なのに!!」


竜神族の力は全種族の中でも上位の位置にある。だが、人間に与えられた権能である気というのは努力次第でその力に張り合うことが出来る。

ニレイルほどとなると人間の中でも限られた者たちしか扱えないのだが、そんなことを知らない少女は驚くばかりだ。


そこから何度も何度も攻撃を繰り返すのだが、少女の攻撃はニレイルに届くことがなかった。大体躱されるか捌かれてしまう。


「私は...私は強くなければいけないんです!!」


少女は人間であるニレイルにこうも弄ばれてしまい焦った。自分が殺したい相手は同じ人間なのだ。ここで遅れをとっては絶対に勝てない。

そんな焦りから少女は本気の一撃を繰り出す。ニレイルと距離を取り、大きく息を吸い込んだ。


(これは...まずいかもしれないな。だが防ぐことが出来れば戦意は喪失させることは出来るはず。)


ニレイルはたくさんの命を奪ってきた。その間、無傷でいられる訳もなく途方もない攻撃を受け続けていた。

そんな中、権能とは別に特殊な能力を身につけていた。命に、死に近いところで過ごしたニレイルは自身に向かう攻撃、危険性を予知でき、ある程度の攻撃の仕方もわかるようになっていた。


そんな経験から少女の次の行動がわかる。全身が危険な技、それは竜神族特有の技だった。

大きく息を吸った少女はそのまま勢いよく炎と共に吐き出した。遠くからでも肌が焼けそうな豪炎が地面を抉りながらニレイルに迫り来る。


「真っ向から打ち破ってこそだな」


炎が迫り来る中、ニレイルは剣を創造し、剣を振り上げた。創造という権能から、ニレイルは武器の扱いに長けていた。優秀な師、死線をくぐり抜けた経験、そしてニレイル自身の才能からほとんどの武器を達人の如く扱える。それは剣も同様だった。


「いくぜ、断空」


剣の刃に気を巡らせる。高速に回された気により剣としての性能が上がる。振り下ろされた剣は空すら断ち切る。故に断空、空を切りそのまま少女の咆哮すら切り裂いて見せたのだ。


「嘘......でしょ??」


確かに少女の咆哮はニレイルに直撃していた。目の前を見てみると地面が抉られているのがわかる。だがその跡もニレイルの前から二手に別れていた。そこで切られたことを察した。

彼女は膝から崩れ落ちる。自身の最大の攻撃を防がれてしまったのだ。よりによって人間に。それを見るとニレイルは少女に近づき、思い浮かんだ策を実行する。


「これでわかっただろ?君はまだ弱いんだ。だから...これから放課後に僕が戦い方について教えようか?」

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