第11話 遭遇
今日も今日とてニレイルは事務作業をこなしている。設備の確認やら清掃やら。本日は授業に参加するようにも言われてないので少なからず安心はしている。
ただ考えるのはやはり竜神族の少女についてだった。罪を償うつもりではいる。だが真実を伝える覚悟がない。仮に伝えたとして殺されることになったとしてもそれは仕方の無いことで甘んじて受けることにするとは思う。ただ死ぬ事で彼女の心が晴れても他の種族に対しての償いにはなりはしない。
いや...それは言い訳でしかないのだろう。思い返すのは彼女の父の最後の言葉だった。
━━━━━本当は死にたくないのだろう。
あの時は他人に言われて初めて自分の心を自覚した気がした。他種族の償いも結局は自身が死にたくないということに繋がるのではないか。
ニレイルはこれまで命令に従って生きてきた。だからこそ自分で動くことが出来ない。そのツケが今になって回ってきたのだった。どんな行動をすれば良いのか分からない。だからこそ、サリアの言った通りに行動するのが1番だと思った。
(まずは親しくなる。過去の話はタイミングを見るべき...だけどなぁ)
思い出すのは彼女から向けられた殺気。人と仲良くなる術も空気を読む術も、相手の気持ちを察する術も持っている。
ただ、殺気を向けてくる相手にはそれ相応の殺気で、もしくは殺される前に殺してきた。今回は絶対に使えない、使いたくもない手を使ってきた。クーのように相手からの交流は望めない。
ニレイルは次は彼女に出会うことを決めて、また熱心に掃除を始めるのだった。
あの日から悪夢を見るようになっていた。いつもみたく家族と幸せに暮らしていたはずだった。父は竜神族の族長をしており、戦闘能力もその責任感だって他の竜神族よりも強い。
そんな父は娘にも自分と同じものを求める。毎日訓練に付き合い、族長の娘としての振る舞いを教える。いつも厳しく指導されていた。
そんな厳しい指導で泣いている私を母は優しく宥めてくれる。母に頭を撫でられると幸せな気持ちになり、自然と涙が収まっていく。
「お父さんもね、あなたのことは愛しているのよ」
母はいつも私に同じ話をする。子供の自分にはそれが本当なのかなんて分からなかった。それでも偉大な背中を見せてくれる父のことは大好きだった。
そんな幸せも1人の人間が襲来したことで終わりを告げた。
「今まで厳しく訓練してきたんだ。お前は1人でも生きていける強さをもう持っているんだ。
今まできつく当ってすまないな。ここから先は私たちに縛られることはもう無い。自由に生きろ。だが幸せになれ。」
最後の父の言葉はいつものように力強く、そして愛に満ちていた。だからこそそんな父を置いて自分だけが逃げる訳には行けなかったのに。
「族長命令だ!さっさと行け!さもなくば俺がお前を殺す!」
父はもうこちらを見てくれない。レイもその父親の思いを無下にするような愚か者ではなかった。レイは涙を流しながら里を捨て、生き延びようとした。
転びながらも、涙で前が見えなくても、それでも走り続けた。自分が生きるために、走って、走って...。
後ろから声が聞こえる。
「助けて」
「なんでお前は生きている。」
「族長の娘だろ、助けろ」
そんなに悪夢を今日も見て、レイの目が覚めた。
「ハァ、ハァ...。」
恐ろしい夢だった。いや、恐ろしい過去、息遣いも荒く、汗で服がベトベトだった。そして思う、今日こそは話をするんだ。あの人間は何か知っているのではないだろうか。
本当は竜神族を殺した人間の手を借りたいなんて思わない。でも仕方ない、それが復讐を果たすために必要なことだから。
授業が終わり、放課後になる。まずはいつも通り、事務職員の小屋に顔を出したが、ここには居なかった。今日も同じようにまだ掃除をしているらしい。またいつもの様に学校中を歩き回った。だがいつもと違うことがあった。
この学校には人間との共存を模索する中、人間に裏切られた時、戦えるようにと戦うための授業も行っている。場所は訓練場と言い、建物はドーム型。2階は観客用の席が用意されている。そして真ん中には正方形の舞台が設置されていた。
その真ん中にレイの目当ての人物はいた。手には箒を持っており、清掃の途中だったらしい。しかし、彼は訓練場に入った時からずっとこちらを伺っていた。
「あなたが新人のニレイルさんですね。突然ですけど...0番と呼ばれる人をご存知ですか?」
罪人と少女は言葉を交わし始めるのだった。
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