罪③

 ニレイルは自分の過去について話してくれていた。話終わると糸が切れたように机に突っ伏してしまった。サリアは1人、酒を飲みながら考える。


 ニレイルは全てのクラスで授業に参加する予定なのだ。遅かれ早かれレイとは顔を合わせることになるのだろう。

 レイとニレイルが出会った場合、戦いは避けられないような気がする。

 それにニレイルのことが少しわかった気がする。彼は自分が悪い人間で死ぬべき存在だと思いつつも、その実死にたくはない。人一倍命というのを間近で感じていただけあってその価値の重さを理解しているのだ。

 だから悩む。命に価値を見いだせなければ人を殺すことにこんなに悩む必要などないのだ。


「だから私は...あなたを救いたかったのだ。」


 いけない、ニレイルに当てられて自分までも酔いが回ってきた気がする。サリアはお会計を済ませるとニレイルをおんぶする。

 意識が朦朧とする中、ニレイルは微かに良い匂いがするのを感じていた。


 サリアはなんとかニレイルの部屋の前まで連れてきた。部屋の鍵を空け、ベッドにニレイルを寝かせようとした矢先だった。


「ニレイル!?」


 ニレイルが酔った勢いでサリアに抱きついたのだった。サリアの顔が赤くなる。2人はベッドに寝転んだ。


「感謝して...る...」


 感謝を伝えようとした時、ニレイルの意識がなくなってしまう。サリアを抱き抱えたまま。


(力が強いのも考えものだな。)


 サリアも魔族の中では強者の部類だ。それでもニレイルの腕を解けるほどの力はなかった。


(どうやら私も酔ってしまったようだな...)


 サリアもそのまま眠ってしまうのだった。





 翌日、ニレイルが目を覚ますと目の前にサリアがいた。昨日の記憶が抜け落ちてる。落ち着こう。とりあえず...。


「ん?ニレイル起きたか?」


 サリアが目を覚ました時、目にした光景は...土下座だった。


「すみません!昨日の記憶は無いんですけど、粗相をしたと思います!」


 ニレイルは謝る。少なくとも女性に対してこういうことをしてしまったのだ。謝らなければいけないと思った。

 そんな姿がサリアには面白く感じてしまう。


「いいぞ別に。それよりも竜神族のレイに関してだ。」


 竜神族の名前が出た瞬間にサリアの表情が真剣なものになる。


「ニレイルが過去のことに罪悪感を抱いているのはわかる。だがタイミングだって同じくらい大事なのだ。君の罪は彼女と親しくなってから伝えても...伝えなくても良いのではないか?


とにかく、私が伝えたいのは彼女を避けるのだけはもうやめてくれ。」


 ニレイルは考える。彼女の言う通り、言わないこともレイという少女にとっては幸せなのかもしれない。正直、どこまで話をしたのかは覚えてない。

 でも最後の竜神族の言葉を考えるのなら...。


「考えときます...。」


 どうすることが正解なのかなんて分からない。でも考え続けなければいけないとも思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る