第2節 竜神族の少女

罪②

 竜神族は山の中で生活していた。山の麓では強力な魔物達が蔓延っており、人間も他種族でさえ近づこうとはしない山の中で平和に暮らしていた。


(あれが竜神族の里か...。)


 ニレイル...0番はそんな平和主義の彼らを滅ぼすように言われていた。奴らは脅威であり、生きているだけで我々に被害をもたらす。それが人間たちの総意だった。

 もちろん竜神族が人間を殺したなどということはなく、むしろ同じ種族以外での関わりなど皆無に等しかった。

 時々、竜神族の中でも世界を知りたいと言った者が表れ、様々な種族と交流を図ろうとするが、その度に竜神族は人間の他種族への差別を辞めさせようとしてくる。

 平和主義の竜神族は、戦うことはあっても命を奪うことがない。だからこそ人間に殺されてしまうことが多くあった。だがそれも一筋縄ではいかない。

 いくら人間がいようが、竜神族の殺害にはそれ相応の数と力が必要だった。


(ああ、彼らなら)


 そんな0番が彼らを滅ぼすためにとった行動は...正面衝突だった。里の中に入り、目に入る竜神族全てに攻撃を仕掛け、殺し続けた。

 無論、生物として圧倒的な強さを誇る竜神族に無傷で勝てる訳もなく、傷つきながらも竜神族を殺して回った。

 そして竜神族も残り1人、彼が一番強かった。お互いにボロボロになりながら、なんとか0番が勝利する。

 向こうはもう指1つ動かせないような状態で0番に話しかけてきた。


「貴様は...なぜ悲しそうな顔をしている?」


 0番の動きが止まった。この男の話を聞きたくなったのだ。


「ここまで貴様は残酷なのだ。なぜ正面から攻撃を仕掛けた?なぜ暗殺をしなかった、貴様ならできたことだろ。」


 0番は黙ったままだった。答える必要がなかった、彼はこちらの心を見透かしているような気がしたから。


「貴様は哀れだな。死に場所を探すくせに本当は死にたくない。だから殺す。本当は殺したくもないのに...。」

「哀れ...そうだな。俺にあるのは殺す覚悟で死ぬ覚悟なんて無かったのかもしれないな。あなたなら...とも思ったけど。」


 彼になら話していいと思った。これが0番が初めて心の内を話した相手だ。


「別にいいさ。貴様、わざと俺の娘を逃がしただろ?」


 目に移る竜神族を殺した。気の操作でいることがわかっていても目に映らないのなら殺さなくても良いだろう。

 それが今できる贖罪、と0番は思いたかっただけだった。


「うちの娘は強くなる。哀れな貴様を殺せるくらいにはな。」

「俺は...惜しいことをこれからする。あなたのように俺がわかる人がそばにいたら...」

「俺もだ。貴様のような哀れな人間を拾っていたのなら...。また変わった結果になっていただろう。」


 0番が右手に持った剣を振り上げ、竜神族の男の頭を切り飛ばしたのだった。

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