第9話 今後

「怒られるかなぁ」


 抱き抱えられながら学校に帰る途中、クーが悲しそうにニレイルに聞く。確かにここまで大事になってしまっては怒られる可能性が高い。

 人間にはおそらく今回のことをギルドに伝えられてしまうだろう。まあそうなったら返り討ちにする気ではいるものの衝突は免れられない。

 原因になるクーは厳しく叱られるはず。だが...。


「それは怒られると思うよ。でも責める人はいないと思う。少なくとも俺も、グレイ先生も絶対クーさんの味方になるよ」


 嬉しかった、そう言ってくれるのが。自分のことを考えてくれる人がいるのは。今までは鳥人族の仲間しかこんなことを言ってくれる人はいなかった。


「ありがとう...」


 涙を流しながらクーが感謝を伝えていると学校に着く。なるべく早く来たつもりだけど、授業はもう終わっているらしい。すぐさまグレイ先生とサリアが駆け寄ってきた。


「クーさん!」


 クーを降ろすとグレイが鬼のような形相で近づいてくる。クーはグレイに怒鳴られると思って目を瞑る。するとグレイはクーに抱擁をしていた。


「良かった。あなたが無事で...。先生として怒らなければいけないのですが...まずはおかえりなさい。あなたが無事で良かった。」

「先生...うぇーーーーん!!」


 先程までは声を殺して泣いていた。それほどまでに恐ろしかったのだろう。だがここに来て安心した。というよりクーもグレイがちゃんと自分のことを見てくれているのは感じていた。

 クーにとってはグレイはもう家族、父親のような存在で、そんな関係が温かくて...。


 もちろんその後は厳しく叱られた。クーの今回の規則を破ったことに対して1週間の掃除と停学がサリアから言い渡される。

 一方、ニレイルについてはグレイに感謝されつつ、サリアに何が起こったのかを説明した。人間にクーが売られそうになったこと、人間は冒険者であったこと、1人は確実に生かして残りは処置によること。


「なんとも...面倒臭いことになりそうだ。」

「…俺がギルドの人間、全員殺しましょうか?」


 人間たちは攻めてくる可能性が高い。それならギルドを壊滅させてしまえば時間稼ぎくらいにはなるだろう。いや、情報が渡る前に殺せば安全性はより確かだった。


「いや、私がもうあなたに殺しをさせることはない。あなたは火の粉を振り払うだけでいい。面倒なことは私が引き受けるから」


 ああ、だからニレイルは彼女に着いてきたのだ。彼女はとても優しいから。とりあえず当面は向こうの出方次第ということで話はまとまったのだった。





「もう関わるのはやめましょう」


 クーを攫おうとしたパーティーのヒーラー、ニコラが他の者たちに伝えるのだが、誰もが怒りに燃えていた。今はギルドの中でギルド長と話をしている。


「ふざけるな!あんなことされて黙っていられるか!」


 包帯を巻いた剣士、ソードが今にも飛び出しそうなのをタンク役の男、ガイラスが止める。


「待て!」

「うるせぇ!」


 今にも手が出そうになる。彼らは怒りに支配されていた。あまりにも話が進まない。ギルド長は机に拳を叩きつけた。


「落ち着け。」


 辺りが静寂に包まれる。全員の視線がギルド長に集まったことを確認してから話を進める。


「そうだな。とりあえずは先遣隊を出そう。情報を集めてから攻めに行っても遅くはない。幸い、向こうにこちらを攻める意思はなさそうだ。」


 ギルド長は話がまとまったと思うと即座に行動に移るのだった。

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