第8話 怒り
人間が与えられた権能はスキルと気の扱いというものだった。
ニレイルが与えられたスキルは創造、ニレイルが知っている物体を創造できるスキルだった。
そして気の扱い。これは鳥人族で言う空を飛ぶのようなスキルとは違い全ての人間が扱うことの出来る権能だった。
ただし、気を自覚し、操れる人間が多い訳では無い。凄まじい程の努力、これがなければ気を自覚することすら難しい。
その分、気というのはとても便利なものだった。体に巡らせれば身体能力を上げることができる。気を隠すことが出来れば自身の存在を可能な限り、希薄にできる。気を道具に纏わせれば道具の強度が上がり、性能も上がる。
他にも空中浮遊だって、水面を歩いたりだって出来てしまうほど気は万能なものだった。
ニレイルは気を身体中から放出させた。ニレイルを中心にして半径2km程の気の球体が生み出される。ニレイルはその空間全てを把握したのだ。
「どこだ?」
まだ見つからない。足に気を巡らせ、力のままに木を蹴りつけた。物凄い勢いで空中を跳んでいる。半径2km以内の全てを把握する。勢いも相まってその情報量は凄まじい程のものだ。だがそんなことは慣れている。
(見つけた。あれは人間?4人いるなしかも...)
1人の男がクーに近づき殴りつけたのがわかる。どうせクーがうるさいとかくだらない理由なのだろう。
というか今の状況だってクーを売りさばこうとしているからなのだろう。他種族は殺されるか、奴隷にされるかの2択しか人間社会での扱いが用意されていない。
鳥人族の場合は腕の羽をむしり取られ、爪を剥がされるのが目に見えている。
(ふざけるなよ!)
怒りが心頭したニレイルは肉眼でクーの姿を確認した。どうやらあの女性のスキルで繋がれていた。すぐさま、光の鎖を破壊するとクーを抱き抱え、人間たちと距離を取った。
「おいおい...他人の獲物を横取りするのはギルドで禁止されてるはずだぞ?お前、見ない顔...。ん?」
男が何かを言いかけた時に、止まった。この男、どっかで見たことがあるような気がした。それも最近、どこだ?
「ニレイル先生...ありがとう」
「ああ、とりあえずグレイ先生も心配してたから」
クーは嬉しそうな顔をする。安心したのだろう。だが人間の男たちは無視されたことに怒りを覚えた。
「てめぇ!無視するな!そいつは俺らが売るんだよ!」
「ゴミが...痛い目を見たくないならさっさと失せろ。」
ニレイルが殺気を彼らに飛ばす。少し怯んだ様子だが、それでも男たちはまだクーを売ることを諦めていないようだった。
「俺らがBランクパーティーだと知ってのことだろうな!」
冒険者にはギルドから強さの指標としてランクを決められている。1つは個人としての強さを表した個人ランク。そしてパーティーを結成した場合、個人のランクとは別にそのパーティーのランクを与えられていた。
Bランクはまあそこそこと言ったところだろう。一応、ニレイルも冒険者として活動していた時期があるが...。
「俺はAランクだ。」
最高はSSランク、これは対他種族用特別戦力と認定される勇者にしか与えられないランクだ。次点にSランク、そしてその次がAランクだった。
まあ力がバレ過ぎるのが良くないからAに留めただけでもあるのだが。脅しとしては有効だった。
「だったらなんだ!お前ら、やるぞ!」
するとすぐさま光の鎖がニレイルを襲う。
「クーさん、ここで待ってくれる?」
木の上に乗っていたはずだが、いつの間にか地面に降り立っていた。クーは頷くとニレイルがそっと地面に置くと、鉄の檻を作り出した。
「これで多少は安全だからね。」
クーはニレイルの優しい声音、そして笑顔に安心した。良かった、クーはニレイルにとって対等な存在だと思える。
「さてと、今逃げるなら痛い目を見なくて済むんだが?」
「黙れよ!」
冒険者パーティーとニレイルが激突するのだった。
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