失踪②

 翌日、グレイが何やらサリアと言い争っていた。


「そんな!私は行きますよ!」

「待つんだ。敷地外に出るのは違反、その違反者のために他の生徒の授業が遅れることは良くないだろ。」

「だからといってクーさんを見捨てる気ですか!?」


 ニレイルは2人に近づき、状況を聞いてみる。どうやら昨日の夜にクーが敷地から抜け出したらしい。理由は不明だった。


「グレイ先生は他の生徒たちの授業を行いなさい。」

「ですが...」

「大丈夫だ。我々にはニレイルがいるんだからな。」


 すると2人の視線がこちらに向かう。確かに、他の先生が授業という中、ニレイルだけは自由に動ける。それに強さも申し分ない。仮にクーが誰かに襲われていたとしてそれを助けられる程の実力があった。


「わかりました。今すぐ向かいます。」

「ああ、ありがとうございます。ニレイル先生...本当にありがとう。」


 グレイは泣きながらニレイルの手を取る。彼は引け目を感じていたのだ。クーの異変を1番間近で見れてたはずの自分が見えなくてこの事態になってしまった。

 そんな責任を感じていた。やはりグレイは良い人だと思う。クーのことも心配だった。すぐさまニレイルはクーのことを探しに行くのだった。





 一体どのくらい飛んでいるのだろうか。もう飛んでいる理由も忘れてしまった。でも流石に疲れちゃったかな。

 クーは空を飛ぶのをやめて歩き出す。レダクローニ学校は森の中にある。森には魔物と呼ばれる危険な生物がいて、人間たちも簡単に近かずこうとはしない。

 一方の他種族ではこの魔物と共生している種族もある。この森の中に集落を築く種族だっている。本来は人間は寄り付かないはずだった。


(あ、人間だ。)


 クーは人間を見つけた。おそらく人間の国にあるギルドから依頼を受けた冒険者なのだろう。ただそういった情報を学校で学ぶのだが、まだクーは覚えられていないようだ。


(ニレイル先生と同じ種族なら)


 外に出たのは良い。でももう帰りたくなってしまった。きっと彼らはニレイルのような優しい人間なのだろう。クーは無防備に人間の前に出てしまった。


「鳥人族?」


 腰に2本の剣を携える男がそう呟く。クーは前に出て人間に学校まで送って貰えるように頼もうとした瞬間だった。


「捕らえろ!」


 男の指示を受け、1人の女性が杖を地面に付くと光の鎖がクーを拘束し、身動きを取れなくする。


「痛いよ!何するの!?」


 クーには何をされているのか分からなかった。だが人間たちは不快な笑みを浮かべたままだった。


「まさか鳥人族がいるとはなぁ!売り捌けば小遣いにはなるだろうな!本当に運がいい!お前ら、さっさと帰るぞ!」


 人間たちは笑いながら学校とは違う方向に向かっていく。売り捌くという言葉から自分の運命を悟ってしまう。


「嫌だ!早く学校に返して!」

「学校?お前らみたいなのがいる学校かぁ。そりゃいい!だがまずはお前を売るのが先だ!」


 良い情報を聞いたと男は嬉しくなる。だがまずはこの鳥人族を売るのが先、必死に抵抗するクーを地面を引きずりながら連れていく。


「やだよ!学校に返して!」

「うるせぇな。アイサ、頼んだ。」

「おっけー!」


 光の鎖を発現させたアイサと呼ばれる女性はもう一度杖をつく。すると光の鎖から電気が流れた。


「いやぁぁぁぁぁ!!」


 電撃の苦しみからクーが悲痛な叫び声を上げる。


「うるせぇって言ってんだろ!馬鹿な鳥人族のくせに!」


 理不尽に男がクーを殴りつけた。痛い...こんな痛いことなんて初めてだった。こんなことになるなら学校からでなければ良かった。泣きたい、けど多分泣いたらまたあの電気を流される。


(助けてよ...先生......。)


 地面を引きずられながら助けを求める。ああ、そうだ。確認したかったのだ。周りの生徒は可哀想な種族と思うだけ。対等に慣れたことなどなかった。

 周りは自分を見下すばかり、口ではそんなことないと口を揃えて言うだろう。でもそれは態度に出てしまっている。

 確かめたかったんだ。クーを1つの種族として認めてくれたニレイルはどこまで大事に思ってくれているのか。

 追いかけてくれるなら...少しはクーのことを大事な人だと、仲間だと認識してくれている気がしたから。


(でも...ニレイル先生も良い言葉をかけてくれるだけで......仲間だなんて思ってくれてなかったのかな)


 クーは自分の運命を悟り、目を閉じた。流石のクーでも売られるという言葉を聞いてしまってはどうなるかは想像がつく。

 目を瞑るとこの地面の冷たさが紛らわされる気がする。なんだか暖かい。そう暖かかった。


「大丈夫ですか?クーさん?」


 目を開けるとクーを抱き抱えてくれたニレイルが笑顔で問いかけていた。

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