第7話 失踪

「ありがとうございます!とても良い授業になりました!」


 授業が終わり、ニレイルはまたいつもの事務作業に戻っていた。その後、放課後になった時にまた改めてグレイ先生が挨拶をしに来てくれたのだ。


「あんな感じで良かったんですかね。特に最後の質問は。」

「はい!もう完璧だったと思います!生徒たちはニレイル先生への不信感が少しだけ薄れたと思います。ニレイル先生との交流は共存に不可欠であるものですのでそう考えるとニレイル先生自身を知ることができる良い解答だったと思います!」


 自分は本音を言ったつもりだが、それが幸をなしていたらしい。グレイ先生の思惑通りに授業が進んで良かったと思う。


「また良かったら授業に誘いますね!私はこれから授業についてまた構想を練ろうと思うのでそれでは!」


 グレイは明るく挨拶するとすぐさま帰って行った。彼にもやりたいことがたくさんあるんだろう。


 それからというものの、1年2組だけではあるものの、ニレイルに対する態度が変わった。と言ってもクーのように明るく話しかけてくれるような人が増えた訳ではないものの、挨拶してくれる人は増えたと思う。

 そんなある日のことだった。またいつものようにクーが話しかけてくれていた。今は放課後である。この学校と寮は歩いて5分の位置関係にある。故に次の授業開始時間を守ること、学校の決められた範囲をでなければ就寝時間や、寮に帰る時間もバラバラでよかった。


「ニレイル先生はさ、私の事好き?」


 いつものようにクーの質問を受けていたのだが...どこか雰囲気が違う。いつも通り明るい気もするのだが、どこか影があるような雰囲気を漂わせている。


「ああ、僕は好きだよ。」


 自分の気持ちを素直に答える。立場上こういうことは簡単に言わない方が良いと思う。だが、おそらくだけど、ここで解答を濁してはいけない気がしていた。


「そっか!ありがとう!クーも先生好きだよ!!」

「クーさん、君は...」

「あ!今日はもう帰るね!ありがとう!」


 何か違和感を感じたニレイルがクーを止めようとしたが、クーはもう帰ってしまった。




 きっかけは些細なことだった。クーはいつも通り授業を受けるために教室に入ろうとしたのだ。


「クーさんってなんかねぇ。」

「ニレイル先生は鳥人族のことああ言ってたけど...可哀想な種族だよね」


 嘲るように笑う生徒たち、彼らに悪気がある訳では無い。記憶力の低さというのは可哀想というただの感想だった。


(クーは楽しいんだけどな)


 自分のことを可哀想だとは思わない。今だって十分に楽しかった。最初の頃もそういう風に哀れまれたこともあったが、特に何も問題はなかった。

 前と違うのは、自分の種族を理解して、嬉しいことを言ってくれた人がいたということ。


(ニレイル先生はああ言ってくれたのに...なんでみんなはクーのことを可哀想って言うんだろう。)


 まだまだ幼い少女のクーはそのギャップに耐えられなかった。




(先生はクーのこと好きって言ってくれたんだ!)


 ニレイルとの話を終えたクーは嬉しそうに、そしてある決意を決める。


(好きなら追いかけてくれるよね!)


 クーは空を飛び、学校の決められた敷地から抜け出したのだった。

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