鳥の少女②

「先程はクーさんが申し訳ありません。何か失礼なことをしていませんか?」


 授業も終わり、生徒たちが帰る時間になった。と言っても歩いて20分ほどにある寮に移動するだけなのだが。

 今、ニレイルに話しかけてくれているのは、クーの担任であるグレイ先生だ。彼の体は透けており、肌も病的なまでに白い。長い髪がより一層陰鬱さを表しているようだった。彼の種族はレイスだ。何やら怯えたような声で話しかけてくる。

 おそらくニレイルのことが恐ろしいのだろう。


「いえ、そんなことは彼女はしていませんよ。むしろ元気を貰えて嬉しかったです!」


 これはニレイルの本音だった。彼女の笑顔には力がある。そういうと、グレイは驚いた顔をした後にニレイルの方に詰め寄った。


「そうなんです!彼女はとても良い子なんです!鳥人族だからか忘れることが多いと言いましても彼女の持ち前の明るさはみんなが助けられるのでしょう!」


 自分の生徒が褒められて嬉しかったのか、心做しか肌の色が良くなったような気がする。だがそれは途端に終わってしまう。


「ですが...彼女の魅力は子供たちには伝わらないんですよね......。」


 何やら思い悩んでいることがあるようだ。その訳を聞く前にグレイが語り始める。


「もちろん自分はできるのにクーさんができないことに対して理解ができないというのは子供なのであるとは思うんです。

 ですがクーさんのあの明るさ、ああいう人がいる環境というのは絶対にプラスになるはずなんです...。

 こんな根暗な私なんかよりもクーさんの方が絶対に必要になるのに。彼女のできないことの多さに納得出来ない子供たちが多いいんですよね...。」


 子供は素直だ。しかもまだ善悪の判断も分からないのだろう。無意識の内に彼女に対して嫌いという感情が湧いているのをグレイは感じ取っているようだった。


「もちろん、それを教育するのも我々教師の使命だとは思うのですが...ままならないですね。」


 どうやら彼は自身の教育に自信が無いようだった。肩を落として落ち込んでいる。ただでさえ体が透けているのにこのままでは消滅してしまいそうな勢いだった。


「そこまで考えてるグレイ先生は絶対に良い先生だと思いますよ。」

「そ、そんなぁぁぁ、うわぁぁぁ!」


 グレイ先生が急に泣き出してしまった。彼も子供たちの教育のために一生懸命だったのだろう。ニレイルに認められたことが泣くほど嬉しかった。


「私は私が情けない!クラスの子供たちへの教育もそうですが!!あなたの事を噂だけで危険な人と決めつけるなんて教師失格です!!


 あなたのような良い人間がいるなんてぇぇ!不甲斐ない!」


 体は薄いが心は熱い人のようだ。ニレイルは自分のことを良い人間なんて思わない。でも他の人にそれも他種族の人に褒められるのは素直に嬉しかった。


「そんな、俺は悪い人間ですよ。今はただ良い人間になろうとしてるだけで先生の人を見る目は確かですよ。」


 ニレイルは嬉しくはありつつも良い人間という所は否定する。仮に他種族を殺そうとする人間がいた場合に自分を例に最初から疑いもせずに信じるのは絶対に避けるべきことだった。

 そんなニレイルのことを察したのだろう。グレイはいきなりニレイルの手を握る。


「ニレイルさん!いやニレイル先生!来週は暇なんですか?もしよろしければ私のクラスの授業に来てください!是非ともあなたには人間との共存のため、授業を手伝ってもらいたい!」


 ニレイルは少しだけ不安を残しつつも、断るという選択肢はない。初めての授業のため頑張ろうと思う。

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