挨拶②

「ありがとう。ニレイル」


 ニレイルの挨拶が終わり、サリアは笑顔で語り掛けてくれる。人間が自分しかいないこの学校で彼女は唯一味方だと思えた。


「あとは...頑張ってくれ。」


 次の瞬間、ニレイルは少し後ろに飛んだ。しかし対応が遅かった。ニレイルの右肩から左の脇腹にかけて大きな切り傷ができた。血が大量に流れ出す。


(攻撃の感覚、これは...)


 体育館の後ろの方を見る。体育館の2階から杖を持った女性がこちらに向かって敵意を示していた。銀髪で長いストレートの髪をしている。特徴的なのはその耳だろう。尖った耳が特徴的なのはエルフだ。


 この世界の人間と他種族にはそれぞれ権能が与えられている。魔族であるとサリアと出会った時に行った幻覚魔法のような魔法の発動、エルフだとこの世の中にいる精霊の加護を受け、精霊の力を現実世界に発現できる権能だ。


 人間には主に2つの権能が与えられている。人間が得た権能の1つは気の操作というもの。

 主な効果は動きを強化してくれること、そして相手へのダメージを与えると言ったもので使い方次第で様々な応用がきく、非常に優秀なものだった。

 ただし、この権能に関しては元々体術において努力してきたものにしか開花できない権能だった。その分、色々な応用が効く。


 そしてもう1つの権能はスキルの存在だ。スキルは生まれながらに得たものであり、デメリット無しで様々な効果をもたらしてくれる。


「スキル発動」


 ニレイルのスキルは創造、ニレイルが知識として保有しているものを何も無い空間から生み出すというものだった。

 ニレイルはスキルを発動して手錠を2つ作り出した。ニレイルは攻撃をしてきたエルフに向かって1つ、手錠を投げつけた。


「風の精霊よ!私の身を守り給え!」


 エルフの周りに風の壁が生み出される。手錠がその風の壁に阻まれ地に落ちたのだが、目の前からニレイルの姿が消えてしまった。


(一体どこだ!?)


 慌てて辺りを見渡すのだが、どこを見てもニレイルはいない。体育館は生徒が床に座っているだけで隠れるような場所はどこにもない。


「!?外か!!」


 エルフの背には窓があった。中に隠れる場所は無い。ということは外に出て後ろから回り込んでくるはず。そう思った矢先だった。


「何してるんですか、フロルさん?」


 エルフはフロルという教師の1人だった。フロルは隣から声が聞こえすぐさま振り向こうとしたがその瞬間、フロルの視界が上下反転した。

 上下が逆さまのニレイルがいつの間にか自分の杖を取り上げていた。

 そして両腕にはいつの間にか手錠もかけられている。


(速すぎるでしょ!?!?これがあの0番の実力なのね!?)


 ニレイルはフロルの片足を右手で掴み、フロルが宙吊りの状態になった。


「…合格よ。ただ一応私は女性なのだからスカートだったら注意しなさいよ。ズボンだったから良かったものの。」


 なるほど、おそらくこれはテストなのだろう。ある程度ニレイルの強さを知らしめなければ生徒たちの中で襲ってくるものもいるかもしれない。

 これは実演だったことを彼女の言葉から察する。だが実演と言うにはあまりにも殺す気が強すぎる気もする。だからベロニカやサリアは応援してくれたのだろう。


「ニレイル、すまなかったな。フロル先生もありがとう。


 君たちもわかっただろう。これが彼の実力だ。人間の全てがここまで強い訳では無いが忠告はしよう。彼に手を出そうものなら生半可な実力だと勝てないぞ。」


 サリアの思惑通り、ニレイルに対しての意識は全員変わった。元々嫌いな人間なのが、強い嫌いな人間に変わったくらいなのだが。これで下手にニレイルを殺そうとするものはいないだろう。


「以上で全校集会を終わろう!全員、授業に戻ってくれ!」


 すると各学年の先生たちが生徒たちを連れて体育館を出ていった。

 これでひとまず一段落はしたのだろう。ニレイルはホッとしたのだが...。


「…そろそろ恥ずかしいわ。下ろしてくれない?」


 ニレイルは謝りながら丁寧にフロルを立たせ、手錠を外すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る