第3話 会議

「私は反対です!」


 学校の会議室、様々な種族の教師陣がいる中、1人の男性魔族が声を荒らげていた。

 現在、生徒は休業期間であり、サリアたち教師は、休業後の学校について会議を行っていた。主に0番、ニレイルの話だ。

 金髪に丸いモノクロをかけた青年はニレイルを職員としてこの学校に配属するのに反対だった。


「落ち着け、アイゼン。まずは座れ。」


 アイゼンと呼ばれた金髪の青年はサリアの言葉を聞いて少しだけ落ち着きを取り戻す。彼にも特徴的な角や翼があり、魔族であることは一目瞭然だ。


「すみません。とにかく、私は0番なんてあんな危険な人物を雇うのは反対です。」


 なるべく落ち着いて話そうとはしているものの、苛立ちは隠せていない。それにこの意見には黙ってはいるものの賛同するものたちが多い。

 人間の0番と言ったら都市伝説だとばかり思っているものが多かった。それほどまでに彼の成した事は現実味が無かった。

 現実味がないと言うより真実を知るものは全て殺されていたのだろう。だから情報が少なく、真実が分からない。それこそここにいる者たちでさえ、まだ信じられない者もいる。


「噂話が本当なら彼は1つの種族を滅ぼしてさえいるはずです。そんな危険な人物を雇うなんて気が狂ったとしか思えません。」

「彼は反省している。それこそ罪滅ぼしがしたいと思うまで」

「それが信じられないと言っているんです!」


 会議室が沈黙に包まれる。サリアとアイゼンは同じ魔族であること、そして付き合いも長いのでサリアが学園長だとしてもしっかりアイゼンは意見を言える。

 だからこそ彼を職員にしたのだが...まあ彼がいなくても反発は大きかっただろう。


「彼の素性を調べた。生まれた時には両親に捨てられ、育ての親からは戦うことしか学んでいないらしい。」

「だから同族が殺されたことを許せというのですか!何をしようとも0番なんてこの学校から、いやこの世から去るべきです!」

「…貴様の意見は最もだと思うが言葉を選べよ。彼は0番なんて番号じゃなくてニレイルだ。それに命を軽く見すぎるなよ。」


 サリアから圧倒的な圧がその場を支配した。恐怖を感じながら、その場にいるものたちが冷や汗をかく。

 この学校は人間との共存を目指す若者を育てるための場所、アイゼンが言うことは最もだし理解もできる。ただ彼を番号で呼び、あまつさえ命を粗末にするような発言は許せなかった。


「そこに関しては私が悪かったです。申し訳ありません。でもニレイルが危険なのは変わりませんよ。」


 流石のアイゼンも自分が感情に流されすぎたことを反省した。でも意見は変わらなかった。サリアを見るまでは。


「この通りだ!頼む!彼は...危険な人間なんかじゃない!もし彼が間違いを起こしたのなら私も命を持って償おう!だから彼のことを認めてやってくれ!」


 サリアは椅子から立ち上がり...土下座をしていた。周りの者たちは慌てる。ここまで懇願した彼女の姿など今まで見た事なかったのだ。


「頭を上げてください!私たちはあなたにそういう行動をして欲しい訳では無いんです!ただ生徒たちの安全のためなんです!」

「それでもこれが私なりの筋の通し方だ。私は頼む立場にしかならない。せめて1年は彼を見てやって欲しい。」


 そこまでしてやっと1人の女性が口を開く。ピンクの髪に兎の耳が生えている。背が低くオドオドとした雰囲気の女性が恐る恐る手を挙げた。


「あ、あの...。彼は危険ですが...こちらの利益になるのも確かです。ですから...サリア様の言う通り1年間見守ってその後は職員として働くかはまた決めるというのはどうでしょうか?」

「確かに...それなら」


 他の教師も彼女が言ったことならまだ恐怖はあるものの我慢ができる。どうやらここが妥協点らしい。


「良い案だ。ありがとう、クレア。みんなもそれでいいか?」


 クレアと呼ばれた兎人族の女性は照れたように顔を赤くし、隠れてしまう。だが他のものたちもそれでなんとか納得したようだった。


「ありがとう!みんな!では来週からの授業に向けてそれぞれ頑張ろう!」


 それぞれにはまだ不安はある。それでも1歩前進したことに変わりはなかったのだった。

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