2章 異世界情緒金稼ぎ

015 入街審査

 一章にて実際にサイトなどで読むとやや読みにくいかと感じたところがありましたので、二章では試験的にではありますが、やや文章の書き方が一章と違う部分がありますのでご了承ください。

 具体的には、キャラクターの話し言葉で長文を話す場合に、改行などを行うなどです。

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 フルダイブ型VRMMORPG『エルダリアウィズオンライン』。

 そのゲームで『最強のデッドマスター』と呼ばれていたウェイトリーは、現実世界で死に、新たな現実となる異世界へと送られた。


 送られた先は異世界でも静寂の支配する森。

 そしてシカシカシカのシカの王国であった。

 

 相棒である魔女のマリーと頼れるアンデッドたちとともにシカの王国を崩壊させ、森を脱出したウェイトリーは近くの村でこの世界のことを少しだけ知り、さらなる理解を求め一路、領都を目指す。

 

 そしてついに領都の街門の前までたどり着いたところから、今回の話をはじめよう。





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 幅広く大きい街門前までたどり着いたウェイトリーの目に映るのは、そこに居並ぶ十数名の人であった。

 列の先には外門を警備する立派な格好をした衛兵がおり、身分証の確認や入街料の支払いなどを行っているようであった。こちらは荷車を引く村人風の人や馬車を引く商人風の人がほとんどで、若干名、身に着けられるだけの荷物を持った人物などが見受けられた。


 その場所以外にも衛兵はいて、そちらを通る人は、これまた身分証か何かを提示してそれを簡単に確認するだけでスムーズに通り抜けている。その人たちの恰好を見れば、街を出る人も入る人も同じように皮鎧や金属鎧を身に纏い、剣や槍、または弓や杖などを持ち歩いているところを見るに、おそらくは冒険者なのだろう。

 

 それ以外にも衛兵は立っており他と比べても広めに道を取っているにもかかわらず、そちらにはほとんど人が通っていなかった。

 察するに貴族なり金持ちなり、或いは騎士や兵士専用かな、と観察を終えたウェイトリーは、マリーを伴い列の一番後ろに並んだ。

 

 しばらく特に何も話さず、周囲をきょろきょろと見まわしていると、ウェイトリー達の前に並んでいた、大きな背負子に荷物をたくさん乗せた男が話しかけてきた。

 

「お二人さんは旅人で?」

「ん? あぁ、そんなところだな」

「どちらの方からいらっしゃったんで?」

「ノアルファール大森林の方からだな」

「大森林から? そりゃまたなんの冗談ですか。

 あそこは人が住んでいるような場所じゃぁありやせんし、ほどほどに離れた場所にしか村はねぇと思うんですが」

「ちょっと訳ありでな。森暮らしをしていた」

「どんなワケがありゃぁあんなおっかねぇところに住むことになるんすかね。まぁ言いたくないってんなら無理にも聞きやせんが」


 はぐらかそうとしていると思われたのか、来た場所について男はそれ以上は聞いてこなかった。

 

「この街にはどういった用件で?」

「冒険者になろうと思ってな。ここから西に三日ほどの村で、この街なら冒険者をやっていくのにもってこいだと聞いてな」

「ああ、街道沿いの泊まれる空き地がある村ですかい?」

「そこだな」

「なるほどなるほど。確かにこの街なら冒険者をやるのにうってつけでさぁ。お連れさんは格好でわかりやすが、お兄さんも魔術師で?」


 マリーは見た目から魔女っぽいが、どうやらこの世界でも魔女や魔術師っぽく見えるらしい。


「似たようなものだな。少し特殊ではあるが魔術で戦う」

「なるほどなるほど。すでに戦闘の心得があるってワケですね。若くは見えやすが、冒険者に初めてなろうってんならちっとばかし遅いようにみえやしたんで」

「この年頃で冒険者になるのは変か?」

「いえいえ! 別にそんなことはありやせんよ。どこかに仕えていた騎士やら、食い扶持に困った魔術師なんてのが冒険者になるってのも無い話じゃありやせんからね」

「全く心得がないままなら、大丈夫なのかって話か」

「そうでさぁ。その点お兄さんは魔術師ってんなら問題ないでしょうさ」

「それで? そっちは何者なんだ?」

「あっしですか? あっしはただのしがない行商人でさぁ。村に生活必需品を運ぶのがもっぱらの仕事ってもんで」

「大荷物はそれでか。馬車や荷車なんかは使わないのか?」

「少し前までは使ってたんですが……、ちっとばかししくじりやしてね。一緒に積み荷までいっちまったもんで、今は身一つで再スタートってな身の上でさぁ」

「そりゃ大変だ。大変ついでに聞きたいことがあるんだがいいか?」

「稼ぎのネタに関係ない話なら構いませんぜ」

「話した通り冒険者になろうと思っていてな。冒険者になるまでは身分証の類がなにもない。その状態で街には入れるものか? 入れるとして、いくらぐらいかかるかわかるか?」

「一人銀貨二枚でさぁ。それから仮の身分証を詰所で発行してもらうのにさらに一枚。こっちは無事に冒険者として登録できりゃあ仮の身分証を返して戻ってきやす。そんでついでに言やぁ冒険者登録には銀貨が五枚でさぁ」

「なるほど。困ったな。銀貨九枚しかない」

「そいつぁ困りやしたね。金に換えられそうなモンはなんかないんですかい?」

「大森林で狩ったシカを丸まる持ち歩いてるんだが、冒険者になる前でも買い取ってもらえるのか?」

「え? いやどうでしょうかね。……魔法袋の類を持ってるんすか?」

「あるが、それとは別に持ち歩く術を使える」

「そいつぁうらやましい話で。詳しいことはわかりやせんが、それを冒険者ギルドで出せるってんなら問題ねぇと思いやすよ。しかし普通のシカですかい?」

「件の村の衛兵に見てもらったところブリッツムースというシカらしい」

「ブリッツムースを丸まる? それなら大銀貨二、三枚はしやすね。状態がよけりゃあもう少し高値がつくかもしれやせんね。

 特に大森林産のアレの毛皮は魔術にいい耐性がありやすからね。っとそうか、大森林産なら値段はもっと高くなりやすね。

 加えて質の良い魔石も取れて十分ってなもんでさぁ」

「魔石か。ちょうど一つあるな」


 そういってウェイトリーはひとつだけ持っていた紫の多面体サイコロのようなピンポン玉より少し大きいサイズのものを、バックパックから取り出し、行商人の男に見せた。


「へぇ。こりゃなかなかいい。これなら一万二千ドラグ、いや一万四千五百ドラグはいけやすね。流石大森林産、ブリッツムースの魔石にしちゃいい魔石でさぁ」

「そうなのか。ならこの魔石を一万ドラグで買ってくれないか? それだけあれば登録料に足りるからな」

「えぇ!? いいんですかい? そりゃお兄さん大損ですぜ?」

「この辺の事情に疎くてな。情報料替わりだ。即金なら大銀貨一枚でいい」

「そいつぁありがてぇ。喜んで取引させてもらいやす!」


 そう言って男は意気揚々と大銀貨を取り出し、ウェイトリーに見せた。

 それと交換するように魔石を男に渡し、大銀貨を受け取った。


「まいど」

「へへっ、世の中こんな取引ばかりってんならあっしはすぐにでも大商人の仲間入りなんですがねぇ」

「まぁ村に生活必需品を届けるのは大事だろ。馬車を買う足しにでもしてくれ」

「ありがとうごぜぇやす旦那!」


 そんな話をしている間に調子のいい商人の男の順番となり、男はニコニコ顔で衛兵のもとへと歩いて行った。

 

「私の研究材料を安値で売り払うとは」

「まだまだ持ってるでしょ」

「研究材料はあればあるだけいいというものですよ」

「研究者に金を持たせたくない理由がよくわかるな」

「先立つものがなければ成果が実を結ぶことはないんですよ?」

「まぁ何事にも限度はある」

「主さまが調達すれば原価ゼロですね」

「ブラック魔女め」


「次!」


 衛兵から声がかかり、馬鹿話をやめた二人は衛兵のもとへ向かった。


「商人には見えんが旅人か? 街へやってきた目的と身分の証明になるものがあれば出すように。入街料は銀貨二枚、二千ドラグだ」

「僻地からやってきた旅人なんですが、目的は冒険者になりに来ました。身分の証明になるものはないです」

「そうか。ならあそこの詰所に行って仮身分証を発行して入街料を収めるように」


 そういって衛兵は詰所の場所を指さしてウェイトリー達の次の順番のものを呼んだ。


 二人は言われたとおりに詰所へと向かい、中へと入って仮身分証の発行を願い出た。

 対応に当たった衛兵は二人で、一人は書類のようなものを書き始め、もう一人は手のひら大の水晶を持ち出してきて、触るように言った。

 

「これは?」

「ん? 知らんのか? これは嘘を感知する魔道具だ。触れているものが嘘を付けば水晶が光るようになっている。

 これに触れたまま質問に答えろ。それで問題がなければ仮身分証が発行される」

「なるほど」

「やましいことがあるなら取りやめることができるが?」

「ないとは思いますが、なにぶん文化が違うところから来たもので自信はないですね」

「街に入るなら必ず受けてもらう必要がある」

「わかりました。やります」


 微妙に変な質問されると困るなぁ、と思いつつウェイトリーは水晶に掌を置いた。

 それを確認して衛兵は質問を開始した。


「性別は男だな?」

「え? はい、そうですが」

「では女であると言ってみてくれ」

「私は女です」


 その言葉に反応して水晶は光った。

 

「正しく動作しているようだな。続けるぞ」

「あ、はい」

「どこから来た」

「ノアルファール大森林から」

「なに?」


 衛兵は怪訝そうな顔をして水晶を伺うが、水晶は光っていなかった。

 

「その前は?」

「あー、日本という国から。或いはエルダリアという場所から来ました」

「聞き覚えはない場所だが……」


 嘘さえつかなければいいとウェイトリーは特に動じた様子もなく答え、同じく水晶は光ることはなかった。


「この街に来た目的は?」

「冒険者として活動するために来ました」

「名前は?」

「ウェイトリーといいます」

「歳は?」

「二十五です」

「二十五? 若く見えるな」

「ありがとうございます」

「別に褒めているわけではない」


 動作確認以来、水晶は光ることなく沈黙していた。

 

「盗賊などの犯罪者を除き、自衛の為以外の理由で人を殺めたことはあるか?」

「ありません」

「金銭的価値があるものを自身の身内以外のものから盗んだことはあるか?」

「ありません」

「この街でなにか犯罪行為や他者を害することを行う予定はあるか?」

「ありません」


 質問の答えを水晶の反応で確認し、衛兵は頷きながら続ける。


「よし、問題なし。次はそちらのお嬢さん」

「はい」


 ウェイトリーが場所を変わり、マリーが水晶に触れる。


「性別は女だな?」

「私は男です」


 水晶は光り、それを衛兵が確認する。

 

「いいだろう。どこから来た」

「ウェイトリーと同じく、ノアルファール大森林から。それ以前は日本におり、生まれはエルダリアです」

「う、うむ……。この街に来た目的は?」

「同じく冒険者として活動するためです」

「名前は?」

「マリナウェルと申します」

「歳は?」

「二十三です」

「盗賊などの―――」

「若く見えますか?」

「は? あぁまぁ、そうだな。あー、ずいぶんと若く見える」

「ありがとうございます」


 ニッコリと笑いながら答えるマリー。それを見てウェイトリーは目頭を押さえた。


「……聞かれたことだけに答えるように」

「はい」

「盗賊などの犯罪者を除き、自衛の為以外の理由で人を殺めたことはあるか?」

「ありません」

「金銭的価値があるものを自身の身内以外のものから盗んだことはあるか?」

「ありません」

「この街でなにか犯罪行為や他者を害することを行う予定はあるか?」

「ありません」


 水晶をしっかりと確認し、嘘をついていないことの確認が取れたのを見て衛兵の男は頷きながら判定を口にした。


「問題なし。両名とも仮身分証を発行しよう。入街料が二千ドラグ、仮身分証の発行料が千ドラグ。この仮身分証で二週間の滞在が許される。冒険者ギルドなど各種ギルド機関や市役所などで身分証扱いのものを得た場合、ここで仮身分証と引き換えで千ドラグ返却される。冒険者ギルドの場合はギルド証と仮身分証を交換し冒険者ギルドからそのまま千ドラグ返却してもらえるから、ここに戻しに来る必要はない」

「それは助かりますね」


 そう言いながらウェイトリーはバックパックから銀貨を六枚取り出して水晶の隣へと並べて置いた。

 衛兵はその枚数を確認し、回収すると書き込みの終わった書類をもう一人の衛兵から渡された。


「これで入街審査は以上になる。ようこそ領都レドアへ」





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あけましておめでとうございます。

以降、二章終了までは二日に一回のペースで更新していきます。

本年もよろしくお願いします。

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