014 街へ
聞いた話はなかなかのインパクトを伴っていたが、この際それはポイっと放り投げるようにして思考をリセットし、務めて冷静にウェイトリーは話を次に進めた。
「俺も冒険者になろうかと思っているのだが、冒険者としての登録と、その口座の開設ができるのはこのあたりでどこが一番近いんだ?」
「冒険者登録は支部がある街ならおおむねどこでもできるな。口座も同じくだ。このあたりで一番近いとなると、ここの街道を東に抜けた最初の分かれ道を北の方へ行く場所が近いな。徒歩で半日ってとこだ。だがまぁ冒険者として活動するのも考えるならそのまま街道を東に二日三日くらい進んだところにある領都までいった方がいいだろうな。人の数も仕事の数も段違いに多いし、いろいろな店も施設も充実してるから、なんかを買うにも調べものをするにもちょうどいいだろうさ」
「そいつはいいな。そちらの方に向かうとしよう」
「ほかにはなんか聞きたいことはあるか?」
「次で最後だな。そもそも今いるここはなんて国で誰が治めている土地なんだ?」
「知らんとは言っていたが、ホントに知らなそうだな。この国はアルトルード王国っつう国でここはその辺境に位置するベンゲル辺境伯領だ。この領地は大森林の魔物を見張り、対処するのが主な仕事で、他国とは大森林を隔ててしか接していないから、人同士の争いとは遠い位置にいる領地だな」
「この国の周辺国ときな臭い関係がある場所があったりするのか?」
「ないではないな。だがすぐに戦争になりそうな場所はないはずだが、俺も村に戻ってきてそれなりに経つからな。最新の近況まではわからんな。ただしばらくそういう話は聞いてはいない」
「まぁ人間同士ってのは隣の芝生が青く見えるもんだしな。そういう場所もあるのは当然だな」
「人が争うのはある意味で本能みたいなものですからね。欲望を律するのは難しいです。特に権力なんか持っていたりすれば」
ウェイトリー、マリーと続けて人の愚かさの一面を説けば、衛兵の男は少しばかり苦い顔をして言葉を紡いだ。
「……お前さんら、常識はありそうだが一応言っておくぞ? むやみに王族や貴族を悪く言ったり、喧嘩売るようなことはするなよ。この国もここの領主も基本的に善良ではあるが、そうでもない貴族もまぁいるからな。そういうのともめ事起こすのは死活問題だからな」
「権力者に逆らっていいことなんて一つもないだろうからな。そのあたりは胸に刻んでおこう。忠告感謝する」
「まぁ大丈夫そうだとは思うが一応な。冒険者としてやっていくなら貴族がらみの依頼もないわけじゃないからな。登録したてではないだろうが、腕は立つようだしランクも相応に上がるのは早いだろうから気を付けておけ」
「心得た」
「もう大丈夫か? 貰うもんも貰ってるし別に遠慮はしなくてもいいが」
「いや大丈夫だ。概ね知りたいことは知れた。感謝する」
お礼を告げ、軽く頭を下げるウェイトリーに衛兵の男は少し苦笑した。
「お前さん、かたっ苦しいな。別にそこまで気を遣わんでもいいぞ」
「いやなに、性分でな」
「まあ横柄であるよりはきっちりしてるくらいの方がもめ事も起こしにくいだろうさ。冒険者としてそれがいいかはわからんがな。下手に出れば付けあがるような輩もいる。そのあたりも注意しておけ」
「なに、こちらも相手は選ぶさ。アホ相手にまともな対応などせんさ」
「それならいい。じゃあ俺は行くからゆっくり休むといい。明日は朝から出るのか?」
「そのつもりだ」
「ならまた入り口で会うだろうが、気を付けていくといい」
そういうと衛兵の男は家を出ていった。
「こちらの金払いがよかったとはいえ、普通にいい人でしたね」
「そうだな。何かと心配してもらったみたいだ。世話焼きなのかもな」
「話の内容は盛りだくさんでしたね」
「金関係はまさにびっくり仰天だった。まさか統一通貨とはな。まぁそれなりに独自の通貨があるにはあるらしいが」
「便利は不便を駆逐するとも言いますし、将来的にはなくなるかもしれませんけどね」
「わからんよ? そういうのはなんでもかんでも一つのモンに依存するのは危険だしな」
「だからこそ銀行ギルド側がどんどん廃止に追い込みそうなんですけどね」
「まぁそっち側が攻める気満々ならあり得る話かもな」
「ただ、国を治める側としては頭の痛い話になるかもしれませんが、一個人として使うにはかなりいいですね。国を跨いでもお金の心配をほとんどしなくて済むというのは僥倖です。現地通貨との交換レートで足元見られる心配もありませんし」
「調べる必要はあるけども、修正点が一つの国に集中してるってことはないだろうからな。ずいぶんと助かる話だよホント。あと金属通貨をじゃらじゃらと持ち歩かなくていいのもポイントが高い」
「重いほど持つようなら資材カードにすればいいじゃないですか」
「……それもそうか。なら銀行口座はなくてもいいのか。っとそうだ。確か現地通貨を回収するとCPを得られるんだったよな。試してみよう」
十枚の銀貨の内一枚を机に置き、端末をかざし回収機能を発動する。
すると、死体を回収したときは黒い光に還元されるのに対し、こちらは白い光に還元されてきれいさっぱり消え去った。
CPを確認すれば千ポイント増えたのを確認した。現状は『11152CP』となっていた。
サバイバルパックを買って、『ブロック携行食と水』を定期的に買っていたために千ポイントを下回っている方が正しいと思われるかもしれないが、死体を回収した時に多少のCPが得られているという話があった。
どうも魔石がそれなりのお値段で回収されているらしく、一度だけ単独で魔石を回収した場合『252CP』であった。これがおよそ四十数体分ほど加算されているためこのような数値になっていた。
このCPを使って何かしらのスターターパックを買って戦力の増強を、とはいかなかったのはその内容が採取やクラフト関係に偏っていたからであった。
『初級錬金術セット』などは有効な薬品を作り出せる可能性があったが、根本的にCPが足りないというのもあり、入手には相応の時間もかかるため見送った背景があった。。
ならば『ランダムカードパック』や『リンカーコールパック』などのカードの新規追加はどうなのかといえば、ランダムが十万CPでリンカーコールが百万CPという金額だったので手も足も出なかったというのが実情であった。
「あぁちゃんと追加されてるな。ランダムが金貨一枚でリンカーコールが大金貨一枚だとよ。平均的な四人家族の半月分と五か月分とかいくら何でもボリすぎだろ。つながりの深いかわいいアンデットを呼ぶのに給料三か月分とかアホか」
「でもそれだけの価値があるとは思いますけどね。実際十万ドラグ払って六つも新しい魔術を覚えられるなら喜んで払う魔術師はいるともいますよ。冒険者にもそういう人はおそらく多いかと」
「言ってることはまぁ正しいし、不満はないといえばないけど、それは大きな罠だろ。一枚はR確定とはいえランダムに夢を見るのは罠だろ。俺は知ってるぞ、フリークラスの『大岩』とか『鉄のダガー』とかがたくさん出るんだろ。騙されんぞ」
「ガチャの闇ですね。ちなみに主さまガチャ運はいかがですか?」
「ふ、普通じゃないか? 可もなく不可もなくだと思うぞ?」
「よくはないということだけはわかりました」
「ただまぁ、正直なことを言えば、スカピ然りトマホ然り、俺がよく使ってたようなコンボパーツ系のスペル関係はコモンアンコモンとレアに山ほどあるから、確率だけで当たりは決められんかもしれんけどね」
「デッドマスターといえば蘇生と葬送ですね。あとは強力な回復スペルですか」
「だな。『コンバ』系はそろえておきたいし、『呼びかけ』とか『リンカネ』とかもだな」
「ところで『魂命蘇生』とかってどういう効果になっているんでしょうね」
「ありゃ現実化しらただいぶマズイ系のスペルだよな。ゲームではプレイヤーの七割蘇生だったが」
「異端審問待ったなしですね。或いは聖人認定とか」
「どっちもヤだな……。宗教関係の調査は必須だな」
「私たち相性悪いですからね。敵は知っておかないと」
「敵かどうかはまだわからんよ?」
「敵じゃないと思いますか?」
「いや思わない」
「ですよね」
とことん相性が悪い二人は基本的に宗教関係者を全く信用していなかった。
「あとは言語関係ですか。これもなかなかの驚きでしたね」
「まぁそうだな。このスキルの『異世界言語理解レベル五』ってのは公用共通語をおよそ完璧に話せて、おそらく読み書きもできそうだな。ただイストラル古国語とかっていう独自の言語の類もあるからレベルが五なんだろうな」
「アルファベットが使わているのも驚きですね」
「単なる偶然なのか、或いは何かしらの必然なのか。なんにしても信仰心もない俺にも感じるものがあるよ」
「神の見えざる手を、ですか」
「或いは神野さんの運営手腕だな」
「それが一番ありえそうだから困るんですよね……。お金と同じく困らないからいいんですけども」
「それはそうと一つ困ったことがあるんだよな」
「なんですか?」
「俺の名前って昔読んだホラー小説が元ネタなんだけど、読んだのが日本語訳版だったから、『ウェイトリー』って英語でどう書くのか知らないんだよな」
「無能」
「だからひどくない?」
「まさか自分の名前を書けないとは思いもしませんでした」
「しょうがいないじゃないか。日本人だもの」
「ならいっそ漢字で『平坂』って書いてはいかがですか?」
「流石にそれはちょっと……」
この後もこれでもかと二人は駄弁り倒し、この日も終わっていくのであった。
なお、この後普通にマリーが綴り知っていたので、それを教えてもらうことで事なきを得るのであった。
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朝、食事を終え、一晩の宿となった空き家を可能な限りきれいに掃除してから家を出た。
陽は昇りきり、空に雲は少なく、清々しい晴れ日和だった。
すれ違う村人に軽く会釈しつつ、村の入口へと向かうと、昨日と同じく衛兵の男が立っていた。
「よう。よく眠れたか?」
「おかげさまでな。昨日はずいぶんと世話になった」
「馬鹿言うな。こっちの方がもらいすぎなくらいだ」
衛兵の男はやれやれといった風に肩を竦めた。
「道は覚えているか?」
「あぁ。とにかく東に行って領都を目指せばいいんだろう?」
「それでいい」
「では世話になった」
「達者でな」
長く話し込まず、さっぱりと会話を終えて、街道を歩き始めた。
異世界に来て初めての人里であり、人との交流だったが、なんということはない、普通なものであった。
いつも通りの真顔、或いはぼーっとした表情をしているようなウェイトリーだが、拍子抜けしたというよりは安心したような心持だった。
それは異世界であっても、人が人であることには変わりはないんだろうな、ということをある程度理解できたからであった。
この世界で生きていくこと。
そのうちの心配事の一つがなくなったような、そんな気持ちであった。
歩き始めて三十分ほど経った頃。
一晩泊まった村ももう見えなくなり、続く街道に人の気配はない。
ウェイトリーは忘れぬうちにと、レイブンレイス達を空に上げ、街道の偵察と街や集落の確認を指示した。
道は間違うようなものではないような話ではあったが、端末に表示される使い慣れたマップほど信用できるものはないし、これはウェイトリーの性分のようなものでもあった。
マップはとりあえず埋めておけ、の精神である。
それから二日と半日、ウェイトリーとマリーのおしゃべり珍道中は続き、ついには遠景に大きな街を囲む外壁が見えてきた。
「あれか。壁でけぇな」
「魔物対策でしょうね。村の衛兵さんの話ではそういう話でしたし」
「こう、デカイ壁を見るとどこがウィークポイントかを探しちゃうのは悪い癖だな。これはメルさんのせいだ」
「『攻城戦』の時の相方さんですか。なんというか……、アレな人でしたよね。メルティアさん」
「あれで『アーキ』のトッププレイヤーだからな。まぁ趣味はイカれてるとしか言えないけど」
「でもあの壁を攻めるのは流石に不味いですよ」
「わかってるし、しないよ。そもそも手札がない」
「あったら攻められるみたいな言い方もやめてください」
ため息を付くマリーにどこ吹く風のウェイトリーは残りの道をゆっくりと歩き出した。
街にはどのようなものがあるのか。どんなものが見られるのか。
不安よりも期待が膨らむ気持ちを胸に、デッドマスターは我が道を行く。
そのお話は、また次の機会に。
――――――――――――――――――――――――――
終了時点でのステータス
PLv:101
HP:3936 STR:226 MAG:786
MP:5454 VIT:251 AGI:522
SP:1009 INT:681 DEX:322
探索系
鑑定10 調査10 感知10 気配察知10 追跡10 遠見10 製図10
罠解除10 鍵開け8 植物採取10 伐採9 鉱物採取10 発掘10
解体10 神秘採取8 野営9 環境同化10
知識系
鑑識10 薬草学6→7(10) 解体術5→8(10) 解剖学4→5(10)
医学2 鉱物学5(10) 魔生物学3→4(10) 地質学1→2(8)
考古学1(10) 人類学1→2(7) 天文学3→4(6) 宮廷儀礼3(7)
術式魔法学(EW)3 魔道力学(EW)2 精霊学1 冥府の戒律10
生産系
土木工事9 建築2 錬金術9 薬草栽培2 罠製作2 木工2 金属加工1 細工1
補助系
投擲10 剣術2 体術7 気配遮断10 行動予測10 水泳6
複合・発展系
(オールレンジスキャン) (弱点看破) (弱点特効) (天地一心)
異世界スキル
異世界適応10 異世界言語理解5 資材カード化5 魔力視5 修復者の瞳10
クラス特性:死者への権限10 クラス特性:術理解明5
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これで一章は終了です。
年内更新はこれで終わり、二章開始は24年1月1日/0時を予定しています。
そこから二章終了まで二日に一度の更新になります。
これの予約をしている現在、緩やかにPVをいただいているようで感謝するばかりです。
未だ始まって間もない作品ではありますが、来年もご愛読いただければ幸いです。
では最後まで読んでいただきありがとうございます。
よいお年を。
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