第5話

 「え、ここでやるんですか?」


 僕が思わず驚きの声を上げたのには明確な理由があった。碧さんの妹さんが出るライブの会場になっているここ、『Zep Tokyo』はキャパ3000人を超える日本有数のライブハウスだったのだ。この舞台は、並の歌い手では立つことすら叶わない、歌い手どころかアーティスト全体でも憧れられるようなステージ。そんなここで歌うという妹さんに俄然僕は期待感が高まった。


 「ここってそんなすごいとこなの?紫苑」


 「え?そうですね……例え方が難しいですけど、歌い手界隈の上位1〜2%に入る知名度とか実力がないと立てる場所じゃないですね」


 「へぇぇ、ここってそんなすごいんだ」


 「そうなんです。僕も何度か来たことはあるんですけどやっぱり違います他とは」


 「紫苑も来たことあるんだ」


 「?はい!」


 「ふぅん」


 なんだか反応が薄い碧さんの理由はわからないけれど、最初とは打って変わってテンションが上がって来た僕は碧さんと共に会場の中へと足を踏み入れた。



 「〜〜〜♪♪」


 「相変わらず綺麗な歌声だね」


 「ありがとうございます!でもワタシなんてまだまだですから」


 「ははっ、歌い手界に現れた超新星の異名を持つ君がそれを言っても説得力には欠けるけどね?」


 「それはあくまでも他人が勝手に付けた評価でしかありません。ワタシはただ、届けたい想いを声に乗せるだけです」


 「君のその謙虚さとブレない想いの強さが、この人気につながっているんだよ」


 「そう、ですね」


 「?何か不安なことでもあるのかい?」


 「いえ、そういうわけじゃないんですけど。今日のライブはこれまでで初めてワタシの姉さんが聴きに来てくれるんです」


 「ほう、それはいいことじゃないか」


 「そうなんですけど、姉さんはこういうジャンルにはあまり明るい人じゃないので、ワタシの想いをちゃんと届けられるかなっていうのが少しだけ不安で」


 「大丈夫だよ。普段通りやればきっとお姉さんにも響くから」


 「そうですよね」


 「しかも、今回のセトリにはPの曲もあるんだ。余計に響くと思うよ」


 「ですね。あの人の作る楽曲、そして歌声はもはや人間よりも人間ですから」


 「まぁ、ただでさえVOCALOIDといういわば機械音声にあそこまで命を吹き込み感情を震わせる楽曲なんだから、それを君が歌えばその楽曲は世界を変えうるよ」


 「さすがにそれは大げさですけどね。ワタシの全力で今日はパフォーマンスできたらと思います」


 「あぁ、期待しているよ。Luna」

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僕がキミとセカイに送るストーリー 神崎あやめ @badstory1

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