第3話
支度をして、父さんと母さんと3人でご飯を食べに行って帰ってくると、父さんから呼ばれて2人で防音室に入った。
「紫苑、曲作りはどう?」
「んー?今のところ上手くいってるよ?」
「そっかそっか。悩みとかないの?例えば上手く作れないジャンルがあるとか」
「っ……さすが父さんだね。上手く作れないっていうか、恋愛系のジャンルだけありきたりになっちゃうんだよね……恋っていう概念が僕にはちゃんとわからなくて」
「なるほどなぁ。恋は、してみないとよくわからないもんなぁ」
「そうなの?」
「そうさ。でもこれだけは言えることがある」
「???」
「恋をすると、絶対に紫苑が作る曲にはいい影響が出ると思うよ」
「それはどうして…?」
「それに気付くのは本人の仕事だからボクからいうことじゃない、かな」
「そっか……」
「まあ、ゆっくりでいいからその気持ちを徐々に理解していければいいね」
「そうだね」
「焦りは禁物だからね?くれぐれも事を急がないように」
「う、うん」
最後の父さんの一言だけ妙に感情がこもっていた事が少し気になったけれど、その後も軽くお互いの話をして、僕は自分の部屋に戻る。そして布団に入りつつ頭は恋愛についてのことで埋められていた。
(してみないとわからないなんて、恋愛ってなんでこんなに面倒なんだろ。それにしてみたとして、本当に僕にその感情が理解できるのかな……)
今後への期待よりも不安を抱えながら、僕は眠りにつく。
「ふぅ、
「ふふっ。
「それもそうだね」
「私たちにできることは紫苑のことを見守ることだけですよ」
「うん」
「もちろん、悩んだ時には手を差し伸ばして道を踏み外しそうな時には引っ張って戻すのも仕事ですけど」
「そうだね。……ねぇ、紫帆」
「なんです?梨苑君」
「久しぶりにボクのギターで歌ってくれないかな?」
「ふふっ、私もちょうど同じこと思ってたんですよね」
その日の夜、地下では優しくて温かい音色が響いていたことを紫苑は知らない。
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