第28話 毒眼の楯
『くくっ、くはははははッ!』
俺が指摘すると、セリックは吹っ切れたように笑い始めた。
一通り笑い終えると、今度は不機嫌そうに顔を歪めた。
『あーあ、せっかくお膳立てしたのに何もかも台無しだ。わざわざ情報を与えてやったのに、役立たずの狼共め』
『セリック……?』
まさか臣下が裏切っているとは夢にも思わなかったのか。
ローザは信じられないといった表情で彼を見つめた。
『なぜだ……同族のお前が、なぜ人狼に手を貸すのだ⁉』
「〝血の盟約〟が理由だろう。当主の座を奪おうにも、こいつはあんたを殺せないからな」
『そんな……』
俺の推察を聞いて愕然とするローザ。
その落胆ぶりを見る限り、相当な信頼を配下においていたのだろうか。
あるいは血の盟約の存在に慣れすぎて、裏切りという行為そのものに現実感が無いのかもしれない。
「はぁ、こういうのは人も魔獣も変わらないのね」
嘆息しながら紅羽は刀の柄に手を添えた。
その次の瞬間には抜刀。セリック目掛けて剣気を放つ。
『馬鹿め』
しかし、その攻撃は突如出現した赤黒い棘によって防がれた。
赤い棘はセリックの身体と繋がっており、それが血液であることがすぐにわかった。
「あたしの攻撃を防いだ……⁉ まさかこいつも
「あぁ、そのようだ」
セリックの肉体を覆う神魔力。
その濃度は先ほど討伐した
「──〝 〟」
俺は初手から聖剣の能力を解放した。
ただ再生力を阻害するだけでなく、一撃で葬り去る必要があると考えたからだ。
それほどまでに奴の神魔力は膨大だ。
『やれやれ、これは仕切り直しだな』
光を灯す刀身を目にしたセリックは、残念そうに呟き、何も無い空間に手をかざす。
するとそこに赤と黒が入り混じった異界の裂け目が出現した。
「逃がすかッ!」
俺は天脚を発動させて神速で斬り込んだ。
『〝毒眼の
しかし、その行く手を漆黒の大楯が阻む。
そして表面に彫り込まれた悪魔がその眼を開いたかと思えば、毒々しい色の瘴気を大量に噴き出した。
「きゃあっ」『瘴気かっ⁉』
「神威……⁉ くッ、〝浄化〟‼」
この瘴気は流石にまずい。紅羽やローザではきっと耐えられない。
俺は急遽攻撃を中断して浄化の神威を発動させた。
漂う瘴気は速やかに中和され、視界が明瞭になっていく。
「大丈夫か?」
「けほっ……ええ、何とか」
『少し息苦しいが、私も無事だ……』
すぐさま中和したというのに二人とも未だに苦しそうだ。
恐ろしいまでの毒気だ。
「……逃げられたか」
おまけに肝心のセリックは、瘴気に紛れてその姿を消していた。
(あの吸血鬼が使っていたのは神威……)
あれは紛れもなく俺と同種の力。神魔将が神々の戦場で使っていたものだ。
神威を知っているということは、つまり神界を知っているということに他ならない。
(俺と同じように神界から下界に戻ったのか? それとも別の目的で動いているのか?)
無論、考えても答えが出ないことは理解している。
それでも、こうも立て続けに異常事態と遭遇すれば嫌でも考えてしまうものだ。
考えがまとまらない内に、洞窟内に変化が起きた。
空間に魔力が集約していき、次の階層へと繋がる裂け目が出現したのだ。
「逃げられたけど、課題は達成扱いなのね」
「そうみたいだ」
課題が達成扱いになったということは、対象がこの場に存在しなくなったということだ。
謎の裂け目を生み出した神威。それを使って別の異界に飛んだと考えるべきだろう。
「……ひとまず城に戻るか」
こうして第二階層は、何とも言えない形で攻略を終えた。
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