第27話 裏切り者
「あんた、一体何したの?」
『な、何なんだ今のは……』
理解が追いつかないのは敵だけじゃなかった。
紅羽もローザも、意味がわからないといった表情を俺に向けていた。
「あー、あれだ。瞬歩的な奴だ」
「んなわけないでしょ⁉ 今のどう見ても
「
「空間転移の固有スキルを持つ韓国のS級覚醒者の異名よ。対人戦では最強と謳われているわ」
なるほど、紅羽には今のが空間転移に見えたのか。
そして、神は時空に縛られない。不完全ながら俺は二秒程度ならそれを再現できる。
先ほどの戦闘で見せたのは、まさにそれだった。
「そうなのか。まぁ、俺も似たようなのが少し使えるんだ」
「……あんた今、自分がとんでもないこと言ってる自覚ある?」
「そんなことより課題は達成したんだ。戦利品を回収して一度城に戻ろう。報酬の件もあるしな」
「ちょっと! 話を逸らさないでよ!」
紅羽が何やら喚いているが面倒なので放置。
それよりも重要なのはこっちだ。
俺は
ルビーのような色味をした大ぶりの魔石だ。
S級魔獣が落としたものだけあって、きっと高く売れるだろう。
(帰ったら売り払って真昼の退院祝いの費用に充てよう)
正真正銘のF級だった頃は入院費を稼ぐのに精一杯で何もしてやれなかったからな。
ちょっと贅沢なくらいがちょうどいい。
『それにしても、人狼の主がこれほどまで力をつけていたとはな』
「知らなかったのか?」
『奴らの戦力はある程度把握していたつもりだ。以前から何度か小競り合いはあったからな。だが、私の記憶だと奴は
「なら途中で進化したってわけね。それで調子づいて攻め始めたって流れかしら」
『そういうことになるな。もしかしたら前当主──父上を喰って進化したのかもしれない。父上が人狼の襲撃にあったとは伝達役から聞いていた。しかし、その者は情報を伝えるため戦闘から離脱する指示を受けていてな……。父上が敗北したことを知ったのは、私が〝血の盟約〟を継承したからだ』
ローザはそこまで語ってから、少しだけ顔を俯ける。
だが、それも束の間。すぐに彼女は表情を引き締めた。
『……だが、これで父上の無念は果たせた。三神たちには本当に感謝している。ヴァルク家の代表として改めてお礼を言わせてくれ』
ローザは俺たちに向けて微笑む。
とても人間に向けるものとは思えぬほどに優しい笑顔だ。
「役に立ったなら何よりだ」
「礼なんていいのよ。単なるビジネスよ、ビジネス」
俺は紅羽に目配せしてから、少し素っ気ない返事を返した。
意図を察した紅羽も、そんな風に答えた。
別に彼女を嫌っているとかそういうわけではなく、単純な自己防衛的なものだった。
俺たちは覚醒者で、彼女は魔獣だ。
余計な感情は抱かない方がいい。
その方がお互いのためだ。彼らにとっても人間は餌なのだから。
『そうか……そうだな』
ローザも何となく察してはいるが、それでも少し残念そうだった。
多分、俺の加護が影響して余計に寂しく感じているんだと思った。
「……ところで」
気まずい空気感を消したくて、俺は話題を変える。
とはいえ、わりと重要な事でもあった。
「次の階層へ繋がる裂け目はどこだ?」
人狼の親玉はついさっき倒した。残党も吸血鬼たちが倒してくれている事だろう。
この状態なら〝吸血鬼陣営の勝利〟と十分に見なせるはずだ。
それなのに、裂け目が一向に現れる気配は無い。
「おかしいわね。普通は課題をクリアした時点ですぐに出現するはずなんだけど……」
紅羽は顎に手を当てて不思議そうに首を傾げる。
高ランク異界をよく知る彼女でも理由はよくわからないようだ。
『ローザ様、ご無事でしょうか?』
『セリック、どうしてここへ?』
『外にいた人狼共の掃討が完了したので支援に参りました』
と、ここでセリックがやってきた。
どうやら吸血鬼たちは
『……まさか
『ああ、正確には彼がな。……人狼の主はとんでもない強さで、私はただ傍観する事しかできなかった。全くヴァルク家として恥ずかしい限りだよ』
『そうですか……しかし、ローザ様はまだ血に目覚めておられません。覚醒さえしていれば、あのような者たちの手を借りずとも勝てたことでしょう』
『さて、どうだかな』
顔を立てようとするセリックに対して、ローザは自嘲気味に返した。
神魔力がもたらす圧倒的な力を目にした彼女は、建前でも自分が優位に立てるとは言い難い様子だった。
『さて、そろそろ城に戻りましょうか。外で皆が待っております』
『ああ、そうだな』
「待て」
セリックに促されたローザは出口に向かおうとするが、それを俺は引き止めた。
振り返ったローザは、俺の姿を見た途端に焦燥感で顔を引き攣らせた。
『ど、どうしたのだ……? 剣など構えて物騒だぞ……』
彼女が顔を青ざめる理由は単純で、俺が臨戦態勢に入ったからだ。
無論、彼女を脅かすつもりは微塵も無かった。
「安心しろ。別にローザをどうこうするつもりはない」
『そ、そうか? ならどうして……』
「用があるのは、お前だ」
俺が視線を向ける相手は、彼女の少し奥に立つ
『ふっ、何だ貴様は。まさか私の態度が気に食わないとでも言うつもりか? 全くこれだから人間という種は……』
「はぁ、とぼけても無駄だぞ。まさか気付かれないとでも思ったのか?」
嘲るような笑みを見せるセリックへ、俺は聖剣を突き付けた。
今のでバレないと考えているなら、こいつは相当間抜けな奴だ。
そう思いながら、彼の失態を指摘した。
「敵が
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