第24話 伏兵

 ──二日後、半月の日。


 俺たちは人狼が拠点にしているという洞窟を目指して、闇夜の森を静かに進む。

 先頭は俺と紅羽、そしてローザだ。十数名の吸血鬼がそれに続く。

 全員、目立たないように黒い外套を羽織っていた。


「思ったよりも大所帯になったわね。あたしたちだけでも余裕なのに」

「ローザの立場的に仕方ないさ」


 正直に言えば俺と紅羽だけで戦力としては十分だ。

 とはいえ、次期当主であるローザを単独で敵地に送り出すわけにもいかない。

 そのため、護衛も兼ねて配下の吸血鬼を引き連れることになった。


『ふん、劣等種どもめ。私はまだ信用したわけじゃない。少しでも妙な真似をしたらただじゃ置かないからな』

「あんたが妙な真似をしなければ大丈夫よ」

『なんだとォ……!』


 残念なのは、その中にセリックも含まれていることだ。

 彼は配下の吸血鬼の中では戦闘能力が高い方らしく、敵地に向かうとなれば連れて来るしかなかった。

 面倒事を起こさなければいいが……。



『そろそろ奴らの巣だ。各自、役割は理解しているな?』


 目的地が近くなり、ローザが後続の吸血鬼たちに確認するように言った。

 彼らに与えられた役割とは、相手側の配下──魔銀人狼ライカンスロープの対応だ。

 巣穴の中や周辺に残る人狼の相手を全て引き受けてもらう。護衛としてついてくる以上、仕事は与えないとな。

 その間に俺たちは巣穴の奥底──人狼の親玉の下へと直行。その首を取る算段だ。


『はい、問題ありません。ですが、本当に大丈夫でしょうか? 魔銀人狼ライカンスロープは我らと同格の魔獣……同数相手ならまだしも巣穴にいる全てを我々だけで対処するだなんて……』

『そう案ずるな。三神が強力な強化魔法をかけるそうだ』


 もちろん不利な戦いを強いるわけではない。

 戦闘が有利に進められるよう、彼らには神威による加護を授けるつもりだ。

 


 少し進むと、苔の生えた大岩が見えてきた。

 ローザの話では、この大岩のすぐ近くに人狼の巣穴となっている洞窟があるらしい。

 俺は魔力の気配を辿り──そして気付いた。


「気をつけろ。取り囲まれているぞ」


 二十、いや三十匹はいるだろうか。

 樹木の上、茂みの奥、倒木の陰。

 あらゆる場所に潜む、獰猛な獣の息遣い。


『なっ、待ち伏せだと⁉ まさか我々の動きを察知していたのか⁉』

「そうみたいだな」

『くっ、みな応戦するんだ! 私たちはこのまま巣穴に突入する』


 ローザは焦りを見せつつも、すぐさま配下へと指示を出した。

 配下の吸血鬼たちは彼女の指示に応じ、血で剣を生み出して構える。


 俺も当初の予定通りに神威を発動させ、吸血鬼たちの能力を強化した。

 彼らに与えた加護は、三つ。勇猛テュール守護ヴォルグ。そして剛腕シュトルクだ。


『おぉ、何だか力が湧き上がってくるような……!』

『ローザさま、ここはお任せください!』


 中でも精神を強化して士気を高める勇猛テュールは、不測の事態が起こった際に有効で、その影響を受けた吸血鬼たちは率先して立ち向かう意志を示した。


「さて、俺たちも仕事するぞ」

「ええ」


 吸血鬼たちが人狼と戦闘を開始する最中。

 俺と紅羽、そしてローザは、洞窟へ飛び込むように進んでいった。

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