第22話 休息
『……客室はこちらです』
ローザの城で休息を取る事にした俺は、メイド服を着た吸血鬼に案内されて客室までやってきた。
「わざわざ、ありがとう」
『……いえ、ローザさまのご指示ですので』
礼を告げると、メイド吸血鬼は丁寧な言葉遣いで答えてお辞儀した。
ただし、丁寧なのは表面的なものだけだ。
俺を見るその目つきは、害虫の類を目にした時と同じだった。
吸血鬼特有の青白い素肌も相まって、とても冷たい印象を受けた。
(すっかり嫌われているなぁ)
本来は敵対関係にあるわけだから、仕方ないと言えば仕方がないのだけど。
俺はともかく、別室に案内された紅羽がキレてないか少し心配だな。
『それでは、ごゆっくりお過ごしくださいませ』
メイド吸血鬼は、これまた外交辞令的なお辞儀をしてから扉をぱたりと閉じた。
「さてと、念には念を入れておくか」
部屋で一人になった俺は、封魔結界の神威を発動させた。
俺が契約しているのは、あくまでローザただ一人だからな。
配下の吸血鬼が何もしてこないという保証が無い以上、安全対策は必須だ。
ちなみに紅羽にはこっそりと〝
これは過去に綾園にも使った神威で、相手が対象者を認識できなくなるというものだ。
よほど気配察知に自信のある者が相手でもない限り、彼女は安全だろう。
「これでよしと……」
安全対策を終えた俺は、備え付けのベッドに身体を預けた。
立派な城を持っているだけあって、家具は上質で寝心地がいい。
ここが異界の内部だということも忘れて、俺はそのまま眠りについた。
◇
恐らく翌朝を迎えた。
曖昧な表現をしたのは、外は相変わらず真っ暗で時間帯がよくわからなかったからだ。
常闇の世界。やはり、ここは異界の中なのだと実感した。
窓の外を眺めていると扉がノックされた。
『……三神さま。ローザさまがお呼びです』
扉を挟んだ向こうから聞こえてきたのは、昨日のメイド吸血鬼の声だ。
俺は返事をしながら扉を開けた、その瞬間。
赤い棘のようなものが俺を目掛けて勢いよく放たれた。
が、しかし。俺が事前に張った封魔結界によって攻撃は無力化され、棘は赤黒い液体に変化して床に滴り落ちた。
恐らく、これは血だろう。吸血鬼が持つ固有スキルの一種だ。
「随分と物騒なモーニングサービスだな」
『ちっ、まだ結界魔法が……』
そんな風に返すと、メイド吸血鬼は目を細めて舌打ちした。
もはや嫌悪感を隠すことすらしない彼女に俺は苦笑した。
「ま、お陰さまで適度な緊張感を保てるよ。さて、気が済んだらローゼのところへ案内してくれ」
『……私を殺さないのですか?』
手を出してしまった以上、俺に殺されると思っていたのだろう。
しかし、俺の反応が想定外だったため、メイド吸血鬼は拍子抜けた顔をした。
「……もしかして自殺願望者だったか?」
『ち、違いますっ!』
「ただの冗談だ。別に気にしてないし、俺はあんたを殺すつもりもない」
吸血鬼たちの反発を買うことは想定の範囲内ってのもあるが、ここで変に揉めても俺たちにはデメリットしかない。
あくまで俺たちの目的は、吸血鬼側を勝利に導くことだ。
このメイド吸血鬼を殺せば、他の吸血鬼との関係も悪化するだろう。
ローザと配下との間に妙な対立関係を生んでしまい、謀反を起こされても面倒だと考えた。
『……変な人間、ですね』
俺の言葉をどんな風に受け止めたのかは知らないが、彼女の目つきが少しだけ柔らかくなったような気がした。
『……私についてきてください。会議室まで案内いたします』
彼女はそう言うと、先導するように歩き始めた。
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