第17話 阿久津

 異界対策協会──会長室。

 その中央に置かれたデスクで、革の椅子に腰掛けるのは初老の男性。

 彼の名は阿久津という。

 世界的な組織である異界対策協会──その日本支部の会長を務める男だった。


「ふむ、なるほど。確かにS級相当の能力は持っているな。魔力波の観測も無し。X級に認定して問題はないな」


 彼は机上に置かれた画面に映し出された映像や測定データを一通り確認し終えると、目の前に立つ女性職員──都筑へ告げた。


「ありがとうございます。彼は今後S級と同等の扱いで大丈夫でしょうか?」

「ああ、構わない。国内初のX級覚醒者だ。くれぐれも丁重に扱ってくれたまえ」

「承知しました。では全職員に通達しておきます」


 都筑は軽く礼をすると、そのまま退室した。

 一人になった阿久津は手元の端末を操作し、とある報告データを開いた。

〝調査不要〟と赤字で記されたそれは、以前に三神が攻略したE級異界に関するものだった。


「負傷した覚醒者の腕の完全再生か。最初に目にした時は馬鹿げた報告だとは思っていたが……」


 欠損部位の完全な再生というのは、奇跡にも等しい現象だ。

 というのも魔法スキルでそれを再現した者が、現時点では存在しないからだ。

 それができるのは未だに世界で三つしか発見されていないという異界産のアイテム──生命の秘薬エリクシルのみ。

 それが部位欠損の再生に対する阿久津の認識だった。


 阿久津は報告データを閉じ、視線を模擬戦の映像に戻した。


「だが、こんな映像モノを見せられては認識を改めねばならんな」


 阿久津はデスクに立て掛けられた一枚の写真を手に取る。そこには中学生くらいの少女が、阿久津と一緒に写っていた。


 彼は悲しげに眉を顰めると、静かに吐露した。


「優里……」

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