第16話 X級
模擬戦を終えて、応接室まで戻ってきた。
現S級である紅羽に模擬戦で勝った俺は、そのままランクを変更する事になった。
「先ほどは取り乱してしまい、申し訳ございません」
いつの間にか敬語に変わっていた女性職員。
俺がS級相当とわかっての事だろうか。
「……それでは三神さんの階級を更新しますね」
「お願いします」
そんな彼女は、おもむろに手元の情報端末を操作し始めた。
しばらくすると、俺の持つ登録証のデータが更新された。
「X級……?」
画面に表示されたのは、これまで見たことのない階級だった。
見たことがないというか、こんな階級が存在すること自体を初めて知った。
「それは魔力に依存しない特殊な能力を持った方に付与される階級です。一般には公開されておらず、協会職員を除けばS級くらいしかその存在を知りません」
「他にもいるんですか?」
「国内では貴方が初めてですね。海外には数名いると聞いています」
なかなかに興味深い話だな。
魔力に依存しないとなると、神聖力のような別の力があるのだろうか。
異世界にはそういった類のエネルギーは存在していたが、地球では初めてだ。
「そんな話どうでもいいじゃない。これでS級異界にいけるんだから」
「この階級は入場制限が無いのか?」
「さぁ? 詳しいことはわかんないけど、たぶん大丈夫よ」
あっけらかんと言う紅羽。
そんな適当過ぎる彼女に代わって、職員が答えてくれた。
「一応ありますが、三神さんはS級相当で登録してありますから問題ありません」
「そうなんですね。ちなみに他の覚醒者がプロフィールを閲覧した時はどう見えるんです?」
「保有魔力基準の階級が表示されます。なので三神さんの場合は……」
「F級のままってことか」
「そうなりますね……」
気まずそうに答える女性職員。
この間みたいに変なのに絡まれないか心配だな。
『いいじゃないですかぁ。地位が低ければ低いほど奇跡を行使する姿が映えるんですからっ! 彼らのように従順な信徒を増やすには、そういった要素も重要ですよぉ?』
もはや布教する事しか頭に無い女神さま。
戦争という一大イベントが終わり、今の彼女は本当にこれしか考えてない。
ちなみに彼らというのは、E級異界で絡んできた金髪男たちの事だ。
あの一件以来、彼らは俺の舎弟みたいな感じになっていた。
挨拶メッセージが毎日のように届くくらいで、実害は無いから放置している。
こっちは名前すら覚えてないと言うのに、よくやるもんだ。
階級更新が完了し、最後にS級異界に関する説明をいくつか受けた。
それも終わると俺と紅羽は、協会のビルを出た。
いつの間にか時刻は夕方になっており、西陽が少し眩しい。
「ところで、何で俺を誘ったんだ?」
敷地内の磨かれた路面を歩きながら俺は紅羽に尋ねた。
俺の問いかけに彼女はしばらく沈黙したあと、呟くように答える。
「……あんたに可能性を感じたからよ」
「どういう意味だ?」
いったい何の可能性だろうか。
抽象的すぎて紅羽の言いたい事がいまいち理解できなかった。
「別にわからなくていいわよ。これはあたし個人の問題だから」
「……そうか」
本人が言いたくないなら、それはそれでいい。
俺はそれ以上聞かないことにした。
「それより。せっかくだしご飯でも行かない? これから最高難易度の異界で共闘するわけだし、お互いの事を知って損じゃないでしょ?」
「構わないが、魔力無しで戦える理由は言わないからな」
「……案外ガードが硬いのね」
呟きながら小さく舌打ちする紅羽。
魂胆が見え見えなんだよなぁ。
「言っとくけど俺は金が無いからな。S級御用達の高級店はお断りだぞ」
「へぇ……仕方ないわねぇ。なら、このあたしが奢ってあげるわよ。感謝しなさいよね?」
「そりゃ有り難い……けど言わないからな」
「今のはそんなつもりで言ってないわよっ!」
そんな下らない会話をしながら、俺と紅羽は飲食店街へと足を運んだ。
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