第13話 紅羽 燐華②

 E級異界での出来事から二日が経った。


 あの時の異常現象については、異界対策協会へ報告しておいた。

 低級覚醒者の言葉を信用してもらえるかは微妙だが、報告するに越したことはない。

 他の異界でも同様の現象が発生しないとは言い切れないからな。


「すみません。俺宛に招集連絡があって来たんですが」

「はい。えーっと三神さまですね? 少々お待ちくださいませ」


 それはさておき、今日は異界対策協会からの呼び出しを受けていた。

 報告内容を受けての事だろうか。だとしたら行動が早すぎる気もする。

 そんな事を考えながら受付を済ませ、待合スペースの長椅子に座って待つ。


「貴方が三神さん?」

「はい」


 5分ほど待つと職員が迎えに来た。

 パリッとしたスーツを着た女性だ。

 眼鏡をかけ、いかにもエリートっぽい雰囲気を醸し出していた。


「魔力は微小で等級はF。上級異界の攻略実績もゼロ。彼女はどうしてこんな人を……」


 女性は手にした端末に視線を落とすと、小声で文句を呟き出した。

 どうやら俺のランクに不満があるらしい。

 事実だから別に構わないんだが、せめて本人の前では隠して欲しいものだ。


「えっと、用件は何でしょう?」


 俺が尋ねると、女性はあからさまに面倒臭そうな顔をした。

 それから一言。


「ついてきてちょうだい」


 有無を言わせぬ雰囲気。

 俺は黙って頷き、女性職員の後に続いた。

 エレベーターでビルの上層階へと上がる。

 そして連れてこられたのは、応接間と書かれた札の付いた部屋だった。


「お、お待たせしました」

「遅いわよ! いつまで待たせるつもりなの⁉」


 部屋に入るや否や、そんな怒声が飛んできた。

 聞き覚えのある声だった。まさかと思って見れば。

 そこには不機嫌そうにソファに腰掛ける赤髪の少女──紅羽の姿があった。


「申し訳ございません……」

「ったく。そんなだからB級のままなのよ」


 溜め息混じりに紅羽が言うと、女性職員はキッとした目付きで俺を見た。

 彼女が苛立っている理由が何となく読めた。

 我儘なS級にいびられて腹立つ気持ちはわかるけど、俺は八つ当たりしないで欲しい。


「事情はわからないが、それくらいにしておいたらどうだ?」


 俺が意見を言うと、今度はこちらを睨んできた。


「そもそも、あんたがメッセージ無視するからこうなってんでしょっ⁉ なんで返事しないのよ⁉」

「え? あ、あぁ。ちょっと忙しくて……」


 そう言えば、そんなものが届いていた気がする。

 俺の予定がいつ空いてるのかと尋ねるメッセージが10件ほど。

 正直に言おう。ぶっちゃけ無視してた。


「もしかして俺の返事が無いから協会経由で呼び出したのか?」

「その通りよ。何か文句ある?」

「いや、俺は別に構わないけど……」


 俺はちらりと横目で職員の女性を見た。

 よくよく見ると何だか疲れ果てた顔をしている。

 確かS級になると担当職員が付くんだっけ?

 きっと彼女がそうなのだろう。この様子だと普段から紅羽に振り回されてそうだ。


「……協会の職員ってのも大変だな」

「ん? 何か言った?」

「いや、何も。ところで用件ってのは?」


 俺が尋ねると、紅羽はにやりと笑った。

 それから俺を指差して言う。


「──あんた、あたしと一緒にS級異界に潜りなさい」

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