第12話 帰還
動かなくなった
奴が
「……倒したか」
しかし、それは杞憂だったようだ。
少し待てば、残骸はぼろぼろと崩れ去っていった。
同時に神魔力の気配が引いていくのを感じた。
俺は安堵しつつ剣を鞘に収めた。
「復活しないってことは、俺みたいに神界と接続しているわけじゃないのか」
それなら邪神が下界に干渉できないという女神さまの話にも納得がいく。
ただ、それだと戦争が始まる以前──管理権限の変動する前から仕込んでいたという事になる。
(それはそれで目的がよくわからないな……)
少なくとも
『それなら心配ご無用ですぅ! 私が神議会でばっちり問い詰めておきますから!』
「神議会……? まさか邪神と対話できるのか?」
『あれぇ? 言ってませんでしたっけ?』
「初耳だな。そもそも対話できるなら戦争なんてしなくて良かったんじゃないか?」
『それは無理ですよぉ? ──決まり事、ですから』
さも当然とばかりに答える女神さま。
戦争は決まり事……か。きっと、そこに理屈や合理性なんてものは存在しないのだろう。
やはり神々というのは、俺たち人間には理解不能だ。
「そうか。それでその神議会ってのはいつあるんだ?」
『5000年ごとですからぁ……2474年後ですね!』
「気が遠くなるような話だな……」
『神界と下界では時間の流れが異なりますから。あっという間ですよっ!』
とりあえずは女神さまの言葉を信じて待つしかないか。
俺が一人であれこれ考えても答えは出ないだろうし。
そんな結論が出たところで、俺は異界の出口へと向かった。
「刀夜くん……!」
「おぉ、三神くん! 無事でしたか!」
異界の外に出ると、綾園たちが俺を迎えた。
みんな俺が帰還するのを待ってくれていたようだ。
「マジで戻ってきやがった……」
「すげぇ……」
意外だったのは、金髪男の一味もその場に残っていた事だ。
真っ先に逃げ帰ってそうなイメージだったんだが。
「三神くん。まさかアレを倒してしまったんですか……?」
興味津々な様子で尋ねてきたのは鈴木さんだ。
「えぇ、まぁ」
「本当に君は何者なんですか? とてもF級とは……」
「そこは企業秘密って事にしておいてください」
そう言って適当に誤魔化しておいた。
女神さまの御力だなんて答えても、どうせ信じて貰えないだろう。
手の内を明かす気がないから適当に答えている。そう受け取られるのが目に見えている。
だったら最初から実力を隠している風にしておけばいい。
「んふふ……!」
「ところで、どうして綾園はそんなに嬉しそうなんだ?」
「ひゃっ⁉ いえ、わ、私は刀夜くんの本当の実力を知ってましたから……それが他の人にも認められてるのが嬉しいというか……い、いえ! な、何でもないです!」
「お、おう……?」
何だかよくわからないな。
なぜ俺の実力が認められると綾園が喜ぶんだ?
『──己が信じ敬う者の、その素晴らしさ。それを広めたいと思う心。うふふ、この子は素質がありますねぇ……!』
頭の中で女神さまが不穏な事を言い出したので、俺は聞こえなかった振りをした。
「……」
ここで金髪の男が何とも言えない複雑な表情で近付いてきた。
「なんですか? 刀夜くんに何か用ですか?」
すると、綾園が間に立ってジトッとした視線を男へ向けた。
その口振りはかなり刺々しい。さっきの事をまだ根に持っているようだ。
「そんなに警戒しないでくれよ……ただ謝りたいんだ」
金髪の男は綾園にそう伝えたあと、俺の顔に視線を移して深く頭を下げた。
それに続くように取り巻きたちも頭を下げた。
「……失礼な事言ってすみませんしたッ」
「「すみませんしたッ‼」」
男たちの予想外の行動に俺は少し戸惑った。
最初の印象が悪かったから、本当に意外だな。
「あー……謝罪してくれるなら、それでいい」
最初に言った通り、俺に怒りの感情はない。
数百年もの時を過ごした俺からすれば、彼らの行動は若さ故の過ちだと思えるくらいだ。
だから、俺は彼らの謝罪を素直に受け入れた。
「こんな俺を許して下さるなんて……この御恩は一生忘れませんッ」
……ところで、彼はどうして敬語なんだろうか。
さらに言えば、凄くキラキラした眼差しで見つめられている気がするんだが。
まるで聖者を崇めるような……。
『きっと私が授けた加護のおかげですねっ!』
(加護? そんな話は聞いてないぞ?)
『信仰を集めやすくする加護ですぅ! せっかく優秀な神輝兵を地上に帰すんですから布教してもらおうかなぁ……なんて? てへ』
あんたの仕業かよ。
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