第3話 帰還

 そんな地獄のような戦争を繰り返して数百年。ようやく決着が着いた。

 結果を先に言うと、俺たちの女神さまが僅差で勝利した。

 俺たちの地道な広報活動(異世界活動)が功を奏して、神聖力リソースの総量で優位に立てたんだとか。


『わー! 此度の勝利は神輝兵アインヘラルの皆さまのお陰ですぅ! ありがとうございますぅ! ぱちぱちぱちー! そんなわけで特に功績を残した神輝兵アインヘラルには褒賞として特別に私のブロマイドをあげちゃいますぅ! 聞いて驚かないでくださいねっ⁉ なんと後光無しバージョンですよぉ⁉ 私の御顔を見れる機会なんて滅多に無いんですから、ちゃんと魂に刻んでくださいねぇ?』


 これは邪神に勝利した時に女神さまが発した御言葉だ。

 数百年戦い続けた戦争の褒賞が女神さまのブロマイドって。

 でも不満を言う者は誰一人としていない。

 悲しいことに神の子である俺たちには、それが素晴らしい褒賞に感じてしまうのだ。


 無論、俺もその有り難いブロマイドを頂いた。

 この時、俺は初めて女神さまの素顔を見ることになるのだが、流石は神さまだけあって人の言語では表現できない美貌だった。

 その人の領域を超越した美少女っぷりは、目にするだけで魂が幸福感に包まれるほどだ。

 とりあえず俺は女神さまのブロマイドを〝見る麻薬〟と呼ぶことにした。

 他の神輝兵アインヘラルたちも概ね同じような扱いをしているようだ。

 神輝兵アインヘラル同士で会話する時なんかは『女神さまキメてくる』で、だいたい意味が通じた。


『もっといい例え方は無いんですかっ⁉ ほら〝&%$#$%$$〟とかあるじゃないですかぁー⁉』


 だって人語で表現できないんだから仕方ないじゃないか。

 現に御言葉の後半部分が人の俺には理解できないし。

 ちなみに天使の言葉なら女神さまの容姿を表現できるらしいが、人の魂では一文字を理解するのが限界らしい。それ以上を理解しようとすると魂が破裂するんだとか。



 さて、女神さまの容姿の話はこれくらいにして、ここからが本題だ。

 戦争が終わってからしばらくしたある日、俺は女神さまに呼び出された。

 玉座の間をを訪れると、女神さまがこちらに向けてふりふりと手を降っていた。

 その顔には相変わらず後光が差しており、はっきりと見ることはできない。


「パンパカパーン‼ おめでとうございます! 貴方さまは今回の戦争で一番の大活躍でしたっ!」


 用件を尋ねると、女神さまはいつの間にか手にしたクラッカーを鳴らした。

 おい、それ今どこから取り出した?

 なんか空間に手をにゅって突っ込んでたよな?

 そんな手品みたいな事に、神の奇跡を使わないでほしい。

 それと効果音を口で言うならクラッカーいらないだろ。


『なので特別に願い事を一つ叶えてあげちゃいますぅ! わー! どんどんぱふぱふぅー!』


 俺の心の声はきっと筒抜けなんだろうけど、女神さまは一切触れてこなかった。

 相変わらずの緩いテンションのまま、願いを叶えてもらう権利を与えられた。

 やっぱりメンタルバケモンだ。この女神。


『どうしますか? いっそのこと天使に格上げしちゃいますぅ? そしたらナマで私の御顔を認識できちゃいますし、より高次元な会話ができちゃいますよぉ⁉』


 その気があれば天使になることもできるらしい。

 ただ、それのどこが魅力なのかさっぱり理解できないのは、俺の魂がまだ人間だからだろうか。

 ぶっちゃけ人間である俺からすれば、天使って何だか昆虫っぽいんだよな。

 生物的な存在なのに、神の意志に沿って機械的に行動する辺りが特に。

 例えば女神さまの椅子になるためだけに存在する座天使とか。

 もっと自我を持てよ。


『……あ、それとも亜神になって私の伴侶になりたいですかぁ? あはっ、仕方ないですよねぇ! やっぱ私の美貌を知っちゃったら〝&%$〟とか妄想しちゃいますよね⁉ やーん、えっち!』


 恥ずかしそうに身をくねらせる女神さま。

 いい感じに目線に光が差し込んでて、何だかいかがわしいお店の嬢紹介みたいだ。

 ところで女神さまの御言葉で理解できない部分は、人間でいう性行為にあたる何かなのだろうか。

 そもそも概念的な存在である神さまには生殖機能が無いからな。

 恐らく、それに代わる享楽的な何かが存在しているのだろうが……。

 ただ、人の魂では意味がさっぱり理解できなかった。


「あー、色々と提案してもらえるのは嬉しいんだが……」


 正直、女神さまの提案はどれも魅力に乏しい。

 俺はただ、流されるままに戦ってきただけだ。

 神や天使という存在に一切の興味が無いし、現物を目の当たりにしても魅力を感じない。

 だから、そんな俺が願うことはただ一つだった。


「──そろそろ地球に帰してくれないか?」

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