第2話 神輝兵

 畏れ多くも神の宣告を受けた当時の俺は思わず──


「……は?」


 素で困惑してしまった。いや、どういうテンションなの?

 神さまってのは神聖で荘厳な存在かと思ってたけど、それは人の勝手な願望が生み出した虚像だったらしい。実際のところは、こんな感じのお気楽な性格だった。

 信仰深い宗教家たちが、彼女を知ったらどんな反応をする事やら……。


『あれれ? 聞こえませんでしたぁ? ではもう一度言いますね!』

「え? あっ、え……?」

『おめでとうございますぅ! 貴方さまはその勇敢な魂が認められ、見事〝神輝兵アインヘラル〟に選ばれましたぁ! わー! ぱちぱちぱちぱち! どんどんぱふぱふぅー!』


 もう一回言ってくれるのは有り難いけど、その自前の効果音っている?

 ……いや、相手は女神(仮)だぞ。きっと疑問を抱くほうが愚かなんだ。

 俺はそう自分に言い聞かせ、頭に浮かぶ疑問符を無理やり押し込んだ。


 何はともあれ、こうして俺は神輝兵アインヘラルとやらに選ばれた。


 

 神輝兵アインヘラルってのは、簡単に言えば神の兵隊だ。

 勇敢な魂はそれだけで神聖力を纏いやすく、兵士にはぴったりなんだとか。

 素質のある人間は死んだ後に、こんな風に女神によって徴兵されるらしい。


 そして、兵を欲するという事は敵対する存在がいるわけで。

 その相手というのが邪神だった。

 これまた荒唐無稽な話だが実際に存在しているらしく、世界の管理権限で女神さまとよく揉めているそうだ。

 そんな邪神率いる魔の軍勢と戦うために選ばれた勇敢なる魂──それが神輝兵アインヘラルというわけだ。

 全く迷惑な話だよな。死後、強制的に徴兵された挙げ句、邪神と戦えだなんて。

 でも、不思議と嫌な気分じゃなかった。

 その理由については、ご丁寧にな事に女神さまが教えてくれた。


『──神の子である人間の皆さまは、私の意志を全肯定しちゃうんですよぉ。ほら、私って存在が自己肯定感の塊みたいなもんですからぁ? だから嫌悪感とかは感じないと思いますぅ』


 要するに神の意志ってのに対して、人は自然と肯定的になってしまうらしい。

 一種の洗脳みたいなものだろうか。

 まぁ、それくらいできても不思議ではない。神さまだし。


 ただ、それを俺たちの前で平然と話す女神さまのメンタルは結構バケモンだけど。


 そんなわけで神の徴兵制度をすんなり受け入れた俺は、神輝兵アインヘラルとして徹底的に鍛えられる事になった。

 鍛えると言っても、やったことは実践の繰り返しだけだ。

 集められた神輝兵アインヘラル同士で、朝から晩まで殺し合う。それが唯一の鍛錬だった。それを100年くらい繰り返したかな?

 ちなみに殺し合うというのは文字通りの意味だ。本当に殺し合っている。

 だが、それでも問題はない。なぜなら神の力によって、夕飯時には生き返るからだ。

 

 何万回にも及ぶ死闘は、本当に俺を強くした。

 数多くの死線を乗り越えた先には、戦士の境地のようなものが見えた。


 後は、異世界の教導者とかやったな。

 ある程度強くなると、そういう仕事も回されるようになる。

 バランスが崩壊した世界に出向し、神の使徒として勇者役の人間を導く仕事だ。

 それによって人間側の安寧が保たれれば、人々は神に感謝を示し、女神さまへの信仰心が一気に高まるというカラクリだ。まぁ、一種の広報活動だな。

 たまに神域に届きそうな存在が出現するから狩ったりするけど、基本的に戦う事はない。

 身内で殺し合う訓練よりも遥かに好きだったよ。この仕事。



 何名かの勇者を導く程度には強くなった頃、邪神との本格的な戦争が始まった。

 これが本当にキツかった。

 何がキツイのかって、お互いに死ぬ事がないからだ。

 殺したはずの敵将が、翌朝にはケロッとした顔で戦場に立っているわけ。

 それは俺自身にも言える事で、戦死しても神さまの神聖力リソースを消費して翌日には生き返った。


 つまるところ、神の戦争ってのはお互いの神聖力リソースの削り合いだった。

 例えるならカードゲームの対戦のような感じだ。

 言ってしまえば俺たちは女神さまが召喚するモンスターカードみたいなもので、戦死しても蘇生されて、また戦場に駆り出されるのだ。

 そして女神さまはプレイヤーに該当する。戦況に応じて蘇生する神輝兵を調整したり、追加の神聖力リソースを消費して特定の神輝兵に加護バフをかけたりしていた。


『あーんっ! また西側から崩されてますぅ! こうなったら守護天使をここに配置して……うーん、この部隊の蘇生は見送って、余剰コストをここに……ぶつぶつ』


 ちなみに女神さまは戦争が始まってからいきいきしていた。

 プレイヤー目線なら、そりゃ楽しいだろうよ。

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