現代に帰還した神輝兵は、神の力で人生をやり直す

ぷらむ

第1話 落ちこぼれ覚醒者

 ──少しだけ昔の話をしよう。


 俺こと三神みかみ刀夜とうやは、自分でも嫌になるくらい落ちこぼれだった。


 病弱な妹を養うために覚醒者の道を選んだが、その結果は酷い有様だ。魔力が微弱だった俺は覚醒者としてはあまりに弱く、最弱の魔獣であるスライムを倒すのが精一杯だった。


 普通は魔獣と戦って経験を積めば、自然と魔力の総量は増えていくものだ。

 人によって限界値は異なるが、才能の乏しい者でも時間をかければD級程度までは強くなると言われている。だけど、俺にはその兆候が全くなかった。


 戦闘技術だけなら、初めて異界に潜った日よりかはマシになったと思う。

 しかし、能力の基盤となる魔力だけは一向に増えなかった。

 

 そんなもんだから、俺の覚醒者としての仕事はF級異界ゲートに籠もって、朝から晩までスライムやジャイアントラットといった雑魚魔獣を狩るだけだった。


 その様子が知らないうちにSNSで晒されていたこともあった。

 雑魚魔獣相手に苦戦する姿が、他の覚醒者には滑稽に見えたんだろう。


『万年F級ってマジ?』

『前に見かけたかも。半年くらい前だったかな? あん時から変わってないって弱すぎない?』

『流石にセンス無いから引退したほうがいいって笑』

『コンビニのバイトよりかは稼げるからな。俺なら恥ずかしくてコンビニ選ぶけど笑』


 コメント欄には俺を小馬鹿にするような書き込みが沢山あった。


 悔しくないと言えば嘘になる。腹が立たないわけがない。

 だけど、それでも俺は異界ゲートに潜り続けた。

 自分の弱さを憂うより、妹の療養費を捻出する方が大切だったから。


 他人の評価なんて気にするな。妹のためにこれからも頑張ろう。

 そう決意を新たにした矢先に、事件は起こった。

 

 全ての始まりは、都内で起きた異界崩壊ゲートブレイクだった。

 異界崩壊ゲートブレイクってのは、異界ゲートが崩壊して内部の魔獣が溢れ出す災害のことだ。異界ゲートを手付かずのまま放置すると発生すると言われているが、はっきりとした原因は未だにわかっていない。

 昼食を取るためにF級異界ゲートから出てきたら、それが起きてた。


 その時の惨状は今でも忘れられない。

 街の至るところで魔獣が暴れまわる様子は、この世の地獄みたいだった。

 もちろん俺は駆け出したさ。

 妹のいる病院に何かあったらと思うと気が気じゃなかったから。


「きゃああああああっ⁉」

 

 病院を目指す道中で、俺は魔銀人狼ライカンスロープに襲われそうになっている少女と遭遇した。

 それを見た俺は、咄嗟に魔獣と少女の間に割って入った。

 なぜそんな行動を取ったのか、今でもわからない。相手は吸血鬼ヴァンパイアに並ぶほどの戦闘能力を持つA級の魔獣で、俺なんかがどうこうできる相手じゃないのに。

 ただ、その時は無我夢中で『助けなきゃ』という短絡的な思考だけで動いていた。


 その直後の俺がどうなったかは言うまでもない。

 勇猛果敢に立ち向かった俺だったが、所詮はF級だ。

 刃物のような凶爪で身体を刺し貫かれ、呆気なく命を落とした。


 あの時、確かに俺は死んだんだ。もう数百年も前の話だけどさ。

 でもまぁ、別に幽霊になったわけじゃない。ここからが、本当に重要な話。


 死んだはずの俺は、気付けば白い部屋にいた。

 そこにいたのは顔のはっきりとしない女性だった。

 胸などの身体的な特徴から女性ってのはわかったが、いまいち顔がわからない。

 こればかりは言葉での説明が難しいな。認識しようとしても出来ないと言うべきかな。

 その容姿をいくら確かめようとしても、不思議な事に後光が差してよく見えない。


 ああ、これが神さまってやつか。無知ながらに、そう思った。

 神の御顔は人には拝めないって、どこかで聞いた気がするから。


 さて、話を戻そうか。

 その顔のはっきりしない女神は、俺に向かって確かにこう言ったんだ。


『パンパカパーン! おめでとうございますぅ! 貴方さまはその勇敢な魂が認められ、見事〝神輝兵アインヘラル〟に選ばれましたぁ! わー! ぱちぱちぱちぱち! どんどんぱふぱふぅー!』

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